説明責任を果たすために適切な瞑想法を選ぶ
筆者らの研究によると、呼吸に集中する瞑想と慈愛に満ちた瞑想は、特定の職場の状況において、より人の力になりやすい。しかし、説明責任がより重要になる役割や状況では、慈愛の瞑想を重視するとよいかもしれない。呼吸の瞑想は、自分の行動に対する責任をあまり感じなくなる可能性があるからだ。特に、自分のミスに責任を持ち、過去の問題に対処しなければならないリーダーやマネジャーは、自分の責任に対して鈍感になりかねない。
このようなリスクを考えると、企業や組織が瞑想のプログラムに投資する際は、特にマネジャーやエグゼクティブが対象の場合、より一般的な呼吸の瞑想に加えて、慈愛の瞑想など思いやりを重視したアプローチを検討すべきである。
仕事中にマインドフルネスを戦略的に取り入れる
最後に、マインドフルネスをいつ行うかは、適切な種類の瞑想を実践することと同じくらい重要だ。毎日、同じ時間にマインドフルネスを実践しなければならないと思うかもしれないが、最も必要な瞬間に合わせて行うほうが、実は効果的である。特に職場への導入に関しては、雇用主が勧める実践がどのようなものであれ、従業員の通常の仕事の流れにスムーズにフィットすることが肝心になる。
筆者らの研究では、コールセンターのオペレーターに、電話が鳴っている間、応答する直前に落ち着いて呼吸をするように指導した。医師の場合は、患者の部屋と部屋の間を歩きながら、相手に好意を示すことを素早くイメージすると最も効果があるようだ。
これは筆者らが実践していることでもある。リンゼーは講義を始める直前に、「どうすれば、すべての学生を歓迎できるだろうか」と自問し、彼らの話にじっと耳を傾けるよう自分に言い聞かせる。アンドルーは難航しそうな会議の前に瞑想を行い、冷静さと思いやりを保ちながら、意識して発言するようにしている。
仕事にマインドフルネスを取り入れるのに最適なタイミングを決めるには、自分が最もストレスを感じやすいのはいつかを考える。ストレスに関連する時間や場所、人物を特定したら、その瞬間に戦略的に対処するために、マインドフルネスを習慣化することから始めよう。
こうした予測可能なストレスの引き金以外にも、マインドフルネスが特に効果的になりそうな単発の出来事もある。研究で明らかになっているように、マインドフルネスはイノベーションの助けとなると同時に、大きな試験や困難なプロジェクトの立ち上げ、資金調達のためのプレゼンテーション、重要な営業の電話、裁判など重要な出来事の前に、優位に立てるような認知能力を高める。決められたスケジュールに従うだけでなく、重要な瞬間に戦略的にマインドフルネスを展開することは、信じられないほど大きな力になる。
もちろん、より標準的な毎日のマインドフルネスの実践も非常に効果的だ。バスケットボール界のレジェンド、コービー・ブライアントは、毎朝数分のマインドフルネス瞑想が、落ち着いて1日を始めるために役に立っていると率直に語っていた。
ただし、仕事と家庭でいくつもの仕事をこなすことに追われている場合は特に、毎日、時間をつくるという伝統的なアプローチよりも、ターゲットを絞った実践から始めるほうが簡単かもしれない。最も必要なタイミングで、最も必要な場所に、マインドフルネス の「薬」を直接、使うのだ。
何より、マインドフルネスは極めて個人的な経験であることを、従業員もマネジャーも忘れてはならない。マインドフルネスの実践に対する反応は人それぞれで、自分にとって最適な方法を実践し、適応させる余地を残しておくことが重要だ。単純に呼吸を意識する、地に足がついている感覚に集中する、ポジティブな意図を視覚的にイメージする、ほかにも何らかの瞑想的な活動を行うなど、アプローチはそれぞれ自由である。重要なのは、あなたやチームの独自の役割、日常、そして心にとって、最も効果的なマインドフルネス戦略を見極めて実践することだ。
"Research: When Mindfulness Does - and Doesn't - Help at Work" HBR.org, December 12, 2022.