YDXとは——「守りのDX」から「攻めのDX」へ

 YASKAWAデジタルトランスフォーメーション「YDX」がスタートしたのは、2016年3月に小笠原氏が代表取締役社長に就任してから数年後、2018〜20年頃だった。

 YDXの合言葉は「データを世界の共通言語に」であり、ビジョンには以下の3つを掲げた。
①    従業員一人ひとりの働き(=データ化&統合化)を全社の利益に確実につなげていくことがデジタル経営の本質である。
②    この考え方をベースに、i3-Mechatronicsを旗印として、安川グループの技術・生産・販売の在り方を変革させ、社会に対する価値創造の最大化を目指す。
③    そして、2025年ビジョンの目標達成とその先のさらなる成長を実現する。

「YDXに取り組む以前から、当社はすでにERP(SAP)導入などを進めていました。しかし、システムが統一されていないなどいくつかの課題が顕在化。とりわけ経営・業務の中心にデータを据えた『安川版データレイク』構想はわれわれの念願でした。当社が推進するデジタル経営においては、名寄せも含めて勘定科目・品目コード・取引先コードをグローバルで統一しています。連結決算で交わされる売上げ・受注などのデータはグループ68社74拠点(海外事業含む)で月200万件に上りますが、これらはすべてグローバル一元化コードにより統合・管理されています」(小笠原氏)

 YDXのフェーズは「YDX-Ⅰ(守りのYDX)」と「YDX-Ⅱ(攻めのYDX)」に大別され、いまはまだ「YDX-Ⅰのさなか」だという。

「これまでYDX-Ⅰで実現してきた取り組みは、経営のコックピット化(連結の経営状況をリアルタイムで見える化)、働き方改革推進・デジタル評価、連結決算の短縮化(連結決算2週間、四半期決算1週間)、異動時の引継ぎ時間ゼロなどです。同フェーズにおいては『トップダウンでスピードを重視する』『目的は意識改革・業務改革だと位置付ける』『利害が一致しないコンサル頼りにならない』『世の中のDXに惑わされない』ことに、特に留意してきました。ここまでにYDXの成果を実感するのは、人同士の距離を感じなくなったこと、そして時間短縮により現実を共有できるようになったこと。最近では営業本部長、支店長、事業部長、関係者らが集まる昼休み会議(12時30分〜12時55分)が実施され、積極的に情報交換を行うようになりました」(小笠原氏)

 YDX-Ⅰにより人・組織の改革が進められた同社であるが、今後推進していくべきYDX-Ⅱの注力事項には「BtoBビジネスモデルのDX変革」「製品・サービスのDX変革」「生・販・技の社内外業務のシームレス化」などが挙げられる。

「YDX-Ⅱで重視すべきは、トップダウンと現場の連携です。私が最大の壁と考えているのは営業部門の部課長層であり、彼らのITリテラシーを養うとともに成功体験を享受していきたいと考えます。またYDX-Ⅰでは『目的=意識改革・業務改革』でしたが、YDX-Ⅱの目的は顧客連携であり、お客様のIT化に追従できる体制・お客様のIT化を加速する体制を整えるつもりです。コンサルを含めDXに見本はいません。YDX-ⅡにおいてもDIYの精神を徹底するとともに、DXを駆使して『あたり前の基準』を上げていくことを末端まで浸透させます」(小笠原氏)