
古い非生産的なパターンを捨て去り、
新しい行動様式を学習し直す
ほとんどの人は、終わりのない仕事を山のように抱えている。仕事の負荷をどうにか減らすことができれば、大いに救われた気持ちになるだろう。それでも、私たちの多くは、実際に助けを求めたりはしない。それが仕事量をコントロールし、仕事に追われなくなるための一つの方法であるのに、である。
私たちはしょせん、単なる人間にすぎない。自分の力で何もかもできるわけではなく、必要なサポートを求めなければ、望むような成功を手にすることはできないのだ。
本当は誰かの助けが必要なのにそうしないのは、誰が実際に助けてくれるのか、いつ、どのように頼めばよいのかがわからないからではない。自分が仕事を抱えすぎていても、人に助けを求めることを自分自身がためらうからだ。特に、同僚から仕事を頼まれたら二つ返事で手を貸すような人ほど、自分からは助けを求めようとしないものだ。
なぜ助けを求めることをためらうのか
このように助けを求めることを躊躇するのは、私たちが仕事を必要以上に抱え込み、常に仕事に追われているように感じる一つの大きな要因である。
筆者は最近、フルタイムで働く世界のプロフェッショナル730人を対象として「仕事に追われる感覚」に関する調査研究を行った。仕事量自体ではなく、さまざまな人的要因について検証したところ、「助けを求めないこと」が「仕事に追われている感覚」の最上位の予測因子2つのうちの1つであるという結果が得られた。また、「助けを求めないこと」は「仕事に追われている感覚」との相関が、2番目に高いことも明らかになった。助けを求めない人は、仕事に追われていると感じる割合が、23%高かったのである。
エグゼクティブコーチの仕事を通じて、筆者がよく見かけるのが「リミッティング・ビリーフ」、すなわち自分で自分の行動を制限する思い込みだ。「もし同僚に助けを求めたら、どうなってしまうか」と恐れるあまり、誰にも助けを求めらなくなってしまう。よくある例に、次のような思い込みがある。
・自分が弱い人間、または仕事ができない人間に見られる。
・相手に仕事を押しつけることになる、あるいは自分が「支援が必要な人」と見なされる。
・周囲から信頼されなくなる。
・誰にも頼ることはできず、すべて自分でやらなければならない。
仕事に追われているという感覚の中には、困難な状況での孤独感も含まれ、それは助けを求めない場合に起こりやすくなる。
エグゼクティブコーチでGo to Help(未訳)の共著者でもあるデボラ・グレイソン・リーゲルは、上記のような思い込みがあると「ためらいや気後れ、孤独感、恥ずかしさといった感情を抱きやすくなる」という。そのような感情を抱いた結果、現れるのは、抵抗したり、やる気をなくしたり、孤立したり、頑張りすぎたりする姿だ。
仕事に追われていても、このようなネガティブな思い込みが原因で、助けを求めずに自分の力でやろうとしてしまう人は、古い思考を捨て去る、つまり、自分のためにならなくなった考え方をアンラーニング(学習棄却)する必要がある。この点が、意識転換の難しい部分であり、実は筆者がコーチという仕事をしている理由でもある。
これは「助けをどう求めるか」という技術的な側面よりも難しい課題ではあるが、「助けを求めることについて、どう考えるか」に焦点を当てることで、物事の見方を変え、さらに広げることができれば、その変化は永続的なものになる。