「助けを求めること」に対する考え方を変える

 助けを求めることへの抵抗感を取り払うには、以下の方法を試してみてほしい。

1. ためらいの原因となっている思い込みを特定する

 多くの人は、いわば自動操縦状態で、特に考えずに行動する傾向があるため、そうした思い込みを完全には意識していない場合が多い。漠然とした抵抗感はあっても、その原因をはっきりと言い当てることができないかもしれない。

「助けを求めたとして、どうなることを恐れているのか」と、自分に問いかけてみる。この質問に答えが出たら、次に「その結果、どれだけ恐ろしいことになるだろうか」と、さらに深く掘り下げていく。

 プライベートエクイティファンドで経営幹部を務めるアニータの場合は、「もし助けを求めたら、何でも自分で処理できるという『エース』のイメージが損なわれ、周囲からカリスマ性がなくなったと見られるのではないか」ということを恐れていた。

 このような恐れは合理的なものではなく、感情的なものであり、自分自身でも認め難いものだろう。しかし、それは人間らしさでもある。

 先の2つの質問に関しては、答えが自分の中に浮かび上がってくるまで、少し腰を据えて内省する必要があるかもしれない。助けを求めることをためらう主な原因となっている心の壁を理解するには、日記をつけたり、信頼できる友人や同僚、訓練を受けたコーチやセラピストと話したりすることも有効だ。

2. 思い込みの原因を探る

 自分がどこで、どのようにして、助けを求めることを躊躇するようになったのかを考えることも、よい気づきになる。

 デジタルマーケティングコンサルタントであるサムは、若くして培った自立心を常に誇りにしていた。その資質は皮肉にも、キャリアでの成功に役立てられたが、その後は、自分が仕事漬けの状態から抜け出せない原因にもなっていた。

 彼には、「誰も助けてくれないのだから、自分で何でもやらなければいけない」という思い込みがあった。というのも、残念ながら、その通りの子ども時代を過ごしたからだ。

 彼の人生において、大人は不在であり、近くにいたとしても何もしてくれないのが日常だった。しかし、自分が大人になり、職場という子どもの時とは異なる環境にあるいま、その思い込みは一緒に働く人々には当てはまらないはずだ。自分の思い込みの根本原因がわかれば、それを客観的に見られるようになる。まだ真実だと思っていることが、実際には真実ではなくなっているのだ。

 リーゲルは、「人は7歳くらいから、助けを求めることと評判が悪くなるというリスクとを結びつけて考えるようになる」とも話している。「人は何十年もの間、『助けが必要だと認めたら、頭が悪い、使えない、怠けている、弱虫だと思われる』と思い込むように仕向けられてきたのです」

 仕事に追われる感覚に関する筆者の調査研究が示しているように、55歳以上の人が最も助けを求める可能性が高いのは、そのためだろう。人は、中年期を過ぎると、他人の目を気にしなくなる傾向がある。この年齢層は、はからずも全年齢層の中で、仕事に追われていると感じることが最も少ない層であった。

 リーゲルは、次のように続ける。「人の助けが、実際には助けにならなかった経験がある人もいます。たとえば、手を貸してくれると言った相手が、その仕事を全部引き受けてしまったり、手伝うと言ってくれたのに、後から『助けは必要ないはずだ』と断言されてしまったりすることです」。手助けしてもらったものの相手が間違っていて、かえっていら立ちが募ることもあるのだ。

 このようなことを1回でも、あるいは何度か経験すると、「人の助けは、あまり助けにならない」あるいは「この人がダメなら、誰がやってもダメだろう」と、一般化してしまう場合もある。一歩下がって振り返ることで、自分の思い込みがどのようなものであるかを理解できるようになるかもしれない。