
モチベーションとエンゲージメントの低下を
いかにして食い止めるか
毎日、悲観的なニュースや経済の先行きに関する不安が大量に報じられ、世界はますます制御不能になりつつあるような感覚に襲われる。米国人の31%が不安や抑うつ状態に陥り(コロナ禍前の3倍にあたる)、労働人口の半分近くが「与えられた仕事以上のことをするつもりはない」と言っているのも、何ら不思議ではない。
いわゆる「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)は、仕事とプライベートの健全な境界線を引く行為だと評する声もあるが、チームと関わりを持とうとしない、コミュニケーションを必要最低限に留める、あるいはミーティングで貢献せずに黙っているといった行為は、「モチベーションとエンゲージメントの低下を示す、典型的な指標」といわれる。
「静かな退職」という言葉は新しいものかもしれないが、ここで起きていることは、人間の性質における根本的な側面が表現されただけである。人間は、長期にわたって回避不可能なストレス要因にさらされると、諦めることでそれに対処しようとする。自分ではどうにもならないのに、なぜ、どうにかしようとする必要があるのか、というわけだ。
専門家はこれを「学習性無力感」と呼ぶ。嫌悪すべき状況下で、自分がどれだけ行動を起こしても、いっさい変化が起きないことがわかると、人間は受け身になり、希望が持てなくなる傾向がある。状況が変化して、自分が物事をどうにかできるようになっても、その傾向は変わらない。
なぜ、このようなことが起きるのかを説明する実験がある。その実験では、3つのアナグラム(単語や文章の文字を並べ替えて、別の単語や文章にする言葉遊び)が書かれた紙が、学生に配られた。
学生には知らされていなかったが、実は2種類のシートがあり、一方は最初の2つが簡単に解けるアナグラムで、もう一方は最初の2つが解くことが不可能なアナグラムになっていた。また、どちらも、3つ目は簡単に解けるアナグラムが用意されていた。
最初の2つのアナグラムを簡単に解くことができた学生は、3つ目もすらすらと解いていた。ところが、最初の2つで絶対に解けないアナグラムに直面した学生は、行き詰まってはいら立ち、3つ目のアナグラムを解こうとすらしなかった。ある学生は次のように言った。「どうやっても、うまくいかなかった。それなのに、なぜ努力するのか」