職場のデフォルト受動性と戦う
幸いなことに、受動性は永続するとは限らない。当初の研究では、無力感は覆せることがわかった。
これを確かめるためにセリグマンのチームは、台の上で無力感を抱いているイヌを、電流が通ったエリアから、同じ台の安全なエリアへと動かした。何回か移動させると、イヌは受動的な状態から抜け出し、完全に自発的な反応を始めた。この介入により、被験体となったイヌの100%が無力感を覆すことに成功した。そして、その回復は「完全かつ恒久的」であることが確認されたのだ。
では、組織はどうすれば、従業員の間に蔓延する受動性を覆し、「静かな退職」を削減することができるのか。それには従業員に自律性、つまり自分の人生や選択をコントロールできる感覚を直接経験させることだ。マネジャーはこれを、2つの方法で実践できる。
まず、従業員にさらなる自律性を与えられる機会を探す。可能な場合には、仕事のスケジュールや期限を自分で決めさせ、自宅と会社のどちらで仕事をするかも選ばせる。誰と協働し、どのように時間を配分し、いかに仕事を終わらせるかも、自分自身で決めさせるのだ。目標や戦略を定める時は、彼らに情報を求め、意思決定プロセスにその声を反映させよう。
従業員の自律性を拡大するだけでなく、可能な場合には自分自身で決定を下し、その自律性を行使するように促す。そうすることで、心理学者が「内的統制」と呼ぶものを育てることができる。脳は選択を切望している。そして、研究結果からは、選択できるという期待だけでも、腹側線条体(期待や興奮を司る脳の領域)が活性化されることが明らかになっている。
従業員に対しては、物事を入れ替えたり、興味がある仕事を引き受けたり、学習に集中したりすることを奨励する。それは、自分で自分の担当業務を選んだり、新たなスキルを習得するために、難しい仕事を引き受けたりすることかもしれない。
従業員の職務がどのようなものであれ、彼らの仕事をもっと有意義なものにしつつ、チームや組織のニーズにも応えるためのアイデアを歓迎することを伝えよう。そうすれば、ストレスフルな状況が生じて、先が見えない絶望感を抱いても、従業員は黙って苦しむのではなく、状況を改善するために行動を起こすようになるはずだ。
「静かな退職」は、従業員が現在の状況から逃れられないと感じた時に起きることを覚えておいてほしい。彼らに自由を与えれば与えるほど、非生産的な方法で対応する必要性を感じなくなるはずだ。
"Are Our Brains Wired to Quiet Quit?" HBR.org, January 03, 2023.