他者への影響力を実感する
他者への影響力を見誤るもう一つの理由は、自分の言動を他者がどう感じるかを推測はしても、その推測が正しいかどうかを尋ねたり確認したりしないためだ。
他者への影響力を理解するには、自分の行動が他者に与える影響に目を向けるだけでなく、実際に他者はその行動をどう感じたのかを知る必要がある。自分の存在、言葉、行動を相手がどのように感じているかを理解する方法を見つけなければならないのだ。
他人の考えや気持ちを理解するには、相手の立場に立って物事を考えるよう努力すればよいと広く考えられているが、残念ながらそれは誤りだ。自分の言ったことについて相手がどう思ったか、他人の視点に立とうとしても、実際には自分の頭から抜け出せず、推測に終始してしまい、その推測は不正確なことが多い。
他者の考えや気持ちを真に理解するには、相手の視点に立つだけでは不十分で、研究の結果、実際に視点を持つことが必要であることが明らかになった。視点を得るには、新しい情報に触れることが必要だ。そのための極めて簡単で効果的な方法は、相手に何を考えているか、何を感じているかを尋ねることだ。
人々が考えていることを正確に話してくれるとは限らず、本当の感情がわからないこともあるが、相手と話をすることで、自分の頭の中の「エコーチェンバー」(反響室)から抜け出すことができる。それによって、自分の思い込みだけでなく相手の心を読み取ることができるようになるのだ。
他者への影響力を経験する
最後に、人が自分の影響力を過小評価する傾向がある大きな理由は、それを試さないからだ。私たちは、相手が受け入れてくれると確信できない限りは発言せず、同意してくれると確信できない限りは頼みごともしない。しかし、相手が受け入れ、同意する可能性についての私たちの判断は、偏っていて不正確だ。自分の影響力を少し試してみれば、たとえ小さなことでも、考えていた以上に大きな影響力を持っていることがすぐにわかるはずだ。
筆者自身の研究でもこれは実証されている。同僚と共同で行った研究で、参加者から他者に小さな依頼をしてもらう。すると、相手がどれだけ喜んで同意するか、つまり、簡単な依頼をする際の自分が持つ影響力に、彼らは決まって驚く。
筆者や他の研究者が行った別の研究でも、勇気を出して人をほめたり、感謝の気持ちを伝えたりすると、自分が考えている以上に、相手にとって大きな意味を持つことがわかっている。
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こうした理由から、自分の潜在的な影響力を知る最も迅速かつ効果的な方法の一つは、それを試すことだと言える。簡単な頼みごとをするのを避けるために、自分で必死に努力をするのではなく、思い切って頼んでみる。同僚への感謝や称賛を自分の胸にしまっておくのではなく、思い切って伝えるのだ。あなたの言葉には、あなたがこれまで考えていた以上の影響力があることがすぐに分かるはずだ。
自分の影響力を小さなことから試すことで得られる経験と、本稿で紹介した自分の頭から抜け出し、視点を得るためのヒントを組み合わせることで、自分の影響力をさらに活用するための筋肉を鍛えることができる。それだけでなく、自分の影響力をより意識的に活用することができるようになる。
"Don't Underestimate Your Influence at Work," HBR.org, January 06, 2023.