システム思考優位の組織づくり
業績や組織力に影響を与える環境的、システム的な要因を看過すれば、のちに大きな代償を払うことになる。たとえば、個人のレベルでは、供給の問題や人員不足を見過ごすと、仕事の遅れを不当に担当者の責任にしてしまいかねない。その結果、その従業員が会社を辞めれば、人員不足はさらに悪化する。
集団レベルでは、意思決定者が、組織的な性差別がある中で、女性が一歩踏み出す、あるいは自信をつける必要があると考えるとする。しかし、女性を適応させることは解決策ではない。システムに包摂性を醸成し、女性が真の意味で成功できるような環境を整えることこそが解決策なのだ。
別の例を挙げれば、障害者は「十分に適応できない」と見なされ、あっさり排除されて、健常者優位のシステムが維持される。「障害の社会モデル」(障害は個人ではなく社会にあるという考え方)のようなシステム的な視点は、障害者を無力化する「アクセシビリティの欠如」こそ解決すべき問題だとしている。適切なテクノロジーの導入や、在宅勤務を可能にするだけでも、障害者が優れた成果を上げる道が開ける。
システム的な対策が求められている時に、個人に適応を求めたり、排除に走ったりするのを防ぎ、リソースの無駄使いや不正義を防ぐには、どうしたらよいのだろうか。
個人レベルでは、「根本的な帰属の誤り」と「集団の帰属の誤り」を克服することは難しい。これは主に、人はストレスを受けると、自動的なパターンやバイアスに陥ってしまう傾向があるためだ。
しかし、共感力や、相手の立場に立って物事を考える視点を身につけ、自分自身の文化的経験を広げることが役立つ可能性がある。相手の立場に立って物事を考える訓練を行うと、他人のことを自分のことのように、つまり状況や環境と結びつけて考えられるようになるため、少なくとも短期的には、性格に注目するという誤りを緩和できるからだ。また、システム思考の訓練や、システム図を描いて説明する練習をするのも、個人が認知の柔軟性を高めるのに効果的である。
しかし、個人レベルの「考えを改める」ための解決策には限界があるが、集団レベルの解決策は、バランスの取れた柔軟な集団認知を発展させ、集団的知性を豊かにすることができる。以下では、組織が集団レベルでスーパーバイアスを抑え込むための5つの方法を紹介しよう。
リーダーシップにおける集団認知を多様化する
メンバーが同質な意思決定集団では、集団浅慮が起こりやすい。富裕層や欧米出身の健常者が集団内で圧倒的な力を持つと、意思決定は「他の人々が行うことは、すべて個人的な問題に起因する」という共通の観念に収束しやすい。
しかし、ストレスがある時を含め、文化的学習や思考回路の違いにより、状況やシステムに自動的に注目する傾向のある人々をメンバーに加えると、集団の視野は広がる。社会経済的な特権を持たずに育った人や、非西洋的な文化の中で育った人の視点、多様な思考を持つ人々を受け入れたうえで、背景や文脈を読み解ける知性の高い個人を特定し取り込むと、バランスの取れた集団的意思決定を行えるようになる。
この多様性は、体裁を整えたり、一時的な介入で終わらせてはいけない。本当の意味で包摂性を実現し、十分に影響力のある多様な声を生み出す仕組みを、システムやプロセスに組み込むことが肝要である。