意思決定の手続きでコンテキストを考えさせる

 意思決定に用いる書式や様式に、状況や環境といったコンテキストを考えさせる質問を項目に加えるとよいだろう。たとえば、研修のニーズ分析や専門能力開発計画の際に、従業員が学んだことを実践する妨げになるような官僚的構造や支援の欠如といった、状況に応じた問題に関する質問を設ける。福利厚生プログラムの計画では、どのようなアプリやイベントを追加するかだけでなく、どのような組織的なストレス要因を排除するかについても検討する。

 また、多様性と包摂性の評価や計画では、偏った選考方法(あらかじめ質問が決められていない非構造化面接など)や、注目度の高いプロジェクトへの起用における不公平など、システム上の障壁を取り除くことに焦点を当てるべきだろう。

ストレスに対処する

 ストレスがあると、状況や環境に伴う要因が無視される可能性が高まる。不必要に急かす、マルチタスクや複数のプロジェクトをやりくりさせる、身体的な不快感を与える(室温が低すぎたり高すぎたりする)といった、コントロール可能なストレス要因を取り除く。これにより熟考できるようになり、短絡的思考や偏った考え方に陥る可能性を減らすことができる。複雑な問題を考えるためには、時間、エネルギー、精神的余裕が必要なのだ。

幅広い意見を求める

 カスタマーサービスや最前線の監督者からR&D、人事担当者まで、現場の従業員は、組織での日常や業界のダイナミクスをそれぞれの視点で見ている。定期的な調査やフォーカスグループ、意思決定への参加を通じて、その知識を集約すれば、組織環境の弱点やボトルネックを詳細に把握し、状況に応じたシステム的な解決策を導き出せるようになる。

 また、最前線で働く従業員に定期的に意見を求めることも、競争優位やプロセス改善の大きな源泉になる。カスタマーサービスの担当者は、顧客ニーズの多様性と、そのニーズを満たすことを妨げている組織的な問題を理解している。人事担当者、ラインの監督者、そして現場の従業員は、従業員研修の強化やスケジュールの柔軟性、あるいは職場の照明の改善などが特に効果的かどうかを知っている。清掃員も、組織の作業パターンに対する独自の見方を持っているはずだ。

システム推進責任者を任命する

 人間の注意力には限界があり、差し迫った問題を解決しながら自分自身の思考について考えることはほとんど不可能だ。しかし、組織においては、システム的な目線を持つ重要性をメンバー全員に思い出させる役割を担う人を任命すべきだ。これは、集団浅慮を防ぐための「悪魔の代弁者」(あえて多数派に反論する人)の役割を特化したものといえる。この推進者が集団に「ピクルスの原則」を思い出させるのだ。「ピクルス対策に投資する前に、漬け込み液を何とかしなさい」と。

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 個別要因と組織的要因の両方に注意深く目を向け、バランスの取れた考え方を身につけると、客観的で思いやりのあるリーダーとして、従業員の信頼を得て、より正確な判断を下せるようになる。

 また、断片的にではなく、体系的にインクルーシブな組織づくりに取り組めるようになる。さらに、従業員を疲弊させたり、疎外したりすることのない、生産性の高いシステムを構築できるようになる。国やグローバルのレベルでは、企業とコミュニティの間のシステム的な相互依存関係を理解することで、仕事の未来、そして世界の未来は、より健全なシステムとして持続可能なものになるだろう。


"Today's Most Critical Workplace Challenges Are About Systems," HBR.org, January 10, 2023.