
職場の問題は
ほとんどがシステムによるもの
日本の奇跡的な経済成長を支えた人物で、継続的な品質改善という哲学の生みの親である先進的な米国人、W. エドワーズ・デミングは、職場の問題の94%はシステムに起因すると述べている。個人レベルの特異な要素に起因するものは、わずか6%である。したがって、改善もまた、個人にではなくシステムに焦点を当てて行うべきだ。
最近の研究も、デミングの考えを支持している。リーダーが組織内で戦略を実行できない、従業員の精神的な健康やウェルビーイングが脅かされる、帰属意識や包摂性の欠如といった、職場における重要な問題の最大の原因は、組織文化やプロセスに埋め込まれたシステム的な要素である。
それにもかかわらず、こうした問題やその他の問題の多くは、いまだに個人レベルで解決されるべきこととされている。以下は、そのような問題に対し、個別に介入を行った例である。
・メンタルヘルスのアプリやレジリエンス研修、昼休みのヨガなどを、従業員のストレス、燃え尽き症候群、道徳的負傷(モラル・インジャリー)への対策と見なしている。
・パフォーマンスを妨げるシステム上の問題(業務上のボトルネックや組織的な人員不足など)を見過ごし、代わりに従業員の人権を侵害するような監視を行い、搾り取れるだけ搾り取っている。
・多様性と包摂性が慢性的に欠如していることに対し、1~2人の見かけ上の昇格で「対応した」という。
・有害な職場環境におけるいじめの対策として、いじめを受けている側にアサーティブネス(自己主張)研修、いじめている側にセルフアウェアネス(自己認識)のコーチングを行う。
・業績が芳しくないリーダーには、既成の研修プログラムに参加させ、改善を期待する。
・非効率的な意思決定プロセスなど、研修では解決できない問題も研修で対処しようとする。
個人に対して行う対策にも意味はあるが、組織レベルやマネジメントのあり方を改善しない限り、長期にわたって十分な効果を期待することはできない。たとえば、慢性的な人手不足に陥っている部署に一貫性のない行動を取る上司がおり、その上司がさらに上からいやがらせを受けているような職場で、従業員のストレス解消に5分間の瞑想を取り入れたところで、どれだけ効果があるだろうか。ピクルスを洗い流し、再び漬け込み液に戻すのと何ら変わりない。
なぜ組織は効果のない、あるいは効果の期待できない対策に投資し続けるのだろうか。その元凶として考えられるのが、人がこの世界を認識し、理解する際に自動的に生じるバイアスである。本稿では、この「スーパーバイアス」がどのように現れ、組織のリーダーはどうすればそれを克服できるのか、説明しよう。