6. DEIへの反発があっても、組織として推進する

 筆者らの調査によると、42%の従業員が、「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)に向けた組織の取り組みは、分断をもたらしている」と考えている。こうしたDEIの取り組みに対する反発は、従業員のエンゲージメントとインクルージョン、そして信頼を低下させるおそれがある。

 このように緊迫した状況に対処し、DEIの取り組みを維持するために、人事部門はマネジャーに対して、DEIに反対する従業員を関与させ、反発がさらに破壊的な状態に発展する前に対処する手段や戦略を提供しなければならない。そのためには以下のような措置が考えられる。

・主な属性(ジェンダーや人種、民族など)に基づくグループごとに安全な空間をつくり、問題を積極的に表面化させる。

・たとえば、アライシップ(差別、抑圧、疎外されている人々に対する支援と連帯)を促進するコミュニケーションやインセンティブを用意して、社内のプラットフォームや公式HPでアライ(支援者)を認定して可視化する。

・従業員が職務上の行動を通じてDEI目標に貢献できることを示して、アライシップを可能にする「ハウツー」ガイドを作成し、従業員の能力を高める。

・具体的にどのように行動すればDEI目標を達成できるかを示すことで、アライづくりを可能にする明確なガイドに基づく従業員のスキルアップを図る。

7. きめ細かな従業員サポートは、新たに個人情報問題を生じさせる可能性も

 人間的な組織であるためには、従業員をより深く知る必要がある。だが、こうした考え方は、個人のプライベートな領域を侵害するおそれがある。組織はいま、人工知能(AI)アシスタントやウェアラブル端末といった新しいテクノロジーを使って、従業員の健康や家族、生活レベル、精神状態などのデータを集めている。こうしたテクノロジーは、雇用主が従業員のニーズに効果的に対応できるようにする一方で、プライバシー侵害の問題を引き起こす可能性がある。

 先駆的な組織は2023年、従業員データの「権利の章典」を策定することにより、従業員の包括的なウェルビーイングの促進に加えて、プライベートとの健全な境界線を引きたい従業員のニーズに応えるだろう。人事部門のリーダーは、組織が従業員のデータをどのように収集し、使用し、保管するかについて透明性を確保することに重点を置くとともに、従業員が不快に感じる取り組みは拒否できるようにすべきだ。