「男らしさ」が揺らぐと人は有害行動を起こす
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サマリー:職場のジェンダー平等というと、女性が直面する不利益の話が多い。しかし男性が感じる不平等もある。すなわち男性が有する「男性性」が脅かされたと感じることである。男性性に脅威を感じた人は、嘘や不正行為など、... もっと見る有害な行動を起こしてしまう可能性がある。本稿では、このメカニズムを研究した筆者らが、マネジャーはいかに組織における男性性への脅威を減らすべきか、3つのステップを提示する。 閉じる

男性性は自律性と結び付きが強い

 自身のアイデンティティが脅かされていると感じて喜ぶ人はいない。宗教や性的指向、あるいは好きなスポーツチームについてでさえ、他人に間違った推測をされ、本来の自分と違う人間として扱われるのはつらいものだ。そう感じるのが自然な反応である一方、対応の仕方には好ましいものとそうでないものがある。

 特に男性の場合、自分のジェンダーアイデンティティが疑われたり脅かされたりしていると感じると、攻撃的な思考や有害な行動を通して「男らしさ」を強調しようとする傾向が女性よりも強いことが研究で明らかになっている。

 男性性が最も脆弱なアイデンティティの一つであることを示す研究も山のようにある。あまりにも不安定なため、些細な脅威を感じるだけで、ふだんなら倫理的に振る舞える男性も、自分が「本物の男」であることを証明するために、嘘や不正行為、いやがらせ、さらには暴力に走ってしまうほどだ。

 では、職場という特定の状況で男性性が脅かされたら、彼らはどのような反応をみせるのか。そして、男性が職場で男性性への脅威を感じる頻度を減らすと同時に、脅威を感じた際に周囲の人々に及ぼす害を減らすために、組織に何ができるだろうか。

 こうした疑問に答えるべく、筆者らは米国と中国在住の社会人500人以上を対象に、一連の調査を実施した。職場で男性・女性のステレオタイプから外れてしまった経験、男性的・女性的な特徴について否定されながら他者と比較された経験、伝統的に男性的・女性的とみなされてきた業務に従事した経験、そして男性が女性上司の下で働いた経験がもたらした影響について調べた。

 調査票や日記、実験を通して浮かび上がったのは、男性がそうした経験を自身の男性性への脅威だと感じた場合(実際、そう感じるケースが多い)、支援を控える、同僚をいじめる、会社の備品を盗む、自分の利益のための嘘をつくなど、さまざまな有害行動に走る可能性が高いということだ。一方、女性が女性性への脅威を感じた場合には、不満に思うことはあっても、有害行動に走る可能性が高まることはなかった。

 何がこの差を生むのだろうか。筆者らの研究では、男性は男性性が脅かされたと感じると(あるいは、過去のそうした経験を思い出すだけでも)、自律性が失われた感覚を覚えるケースが多かった。これに対し、女性が女性性への脅威を感じても、自律性の認識には影響が生じなかった。この結果は、男性性が独立心自律的に行動する力と結び付けられやすい一方、女性性は共同行動と結び付けられる傾向が高い、という先行研究とも一致している。

 もちろん、より自律的に行動したいと願うことが悪いわけではない。それどころか、自律性は性別に関係なく、人間の基本的な欲求だ。

 だが、男性は自身の男性性(ひいては自律性)が脅かされたと感じると、自律性の感覚を取り戻すために、嘘や不正、盗難、ルール破り、同僚へのいじめ、支援控えなどの有害な行動に走りやすいことが、筆者らの研究で明らかになった。対照的に、女性は伝統的に理想とされてきた女性らしさの条件として自律的であることが重視されないため、女らしくないと思われても、自律性が脅かされたとは受けとりにくい。その結果、女性は女性性が脅かされる経験に、自律性を取り戻すための有害行動で応じる可能性が低い。