3. 有害な構造を壊す

 男性に男性性への脅威を感じさせるような構造を打ち壊すことは、マネジャーやリーダーの役割だ。

 共同作業よりも個人単位の業績に報酬を与える、仲間意識よりも競争を重視する、「勝者総取り」のインセンティブ体制を敷いている、といった形で伝統的な男性的価値観を重んじる組織は、男らしさの有害な理想像を助長し、男性が不十分さと脅威を感じざるをえない環境を生み出している。そうしたシステムを見直し、より健全な男らしさを推奨できれば、職場で「自分が本物の男だと証明する」必要性は薄れ、男性性への脅威を感じた人がいちだんと有害な行動に走るという悪循環を食い止められる。

 この悪循環を阻止するもう一つの方法として、従業員が自律的に行動できると感じられる環境をつくることが挙げられる。いつ、どこで、どのように働くのかをめぐる自由度が高まれば、男性が男性性への脅威を感じ、自律性が揺らいだとしても、そのインパクトは小さくなり、有害な行動に走る可能性を低減させられる。適切なアプローチは組織によって異なるが、柔軟な働き方を模索したり、積極的なジョブクラフティングを奨励したりすることで、従業員の自律意識を高めることができる。

 最後に、この問題を議論する際に、マネジャーやリーダーは「有害な男らしさ」といった曖昧で意味深な表現(こうした表現は皮肉にも、男性が男性性への脅威を感じる引き金となり、有害な行動を増やしかねない)に頼ることなく、特定の問題行動(「攻撃性」「いじめ」など)にフォーカスした表現を使うよう奨励すべきだ。

 組織は「男らしさは悪だ」というメッセージを発するのではなく、男性性への脅威が有害行動につながる仕組みを問題視し、男女ともに協力して有害行動の根本原因に向き合い、すべての人の本当のアイデンティティを受け入れることを促すべきだ。

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 職場のジェンダー平等というと、女性が直面する不利益の話に注目が集まりがちだ。実際、男性が自分の男らしさを脅かされたと感じた際、そのツケを払わされるのは女性である場合が多い。

 ただし、このタイプのアイデンティティの脅威は、概して、男性が経験する割合が圧倒的に高いことが研究で明らかになっている。私たちの文化では一般的に、女性らしさはより安定したものとみなされており、職場に女性的でない特性を持つ女性がいても、「本物の女」ではないと判断されることなく、むしろ称賛を集めやすい。一方、男らしさは常に身に付け、証明し、何度でも示さなければならないアイデンティティとみなされている。

 時代遅れのステレオタイプに基づいて男らしくない、女らしくないと思われたり、アイデンティティが脅かされたりすることなく、誰もが自分のジェンダーアイデンティティを認められていると感じられる──そのような公平な職場文化を構築できれば、男性が職場で快適に過ごせるようになり、そうでない場合に起こりがちな破壊行動を減らすことにもつながる。つまり最終的には、あらゆる人に恩恵をもたらすのである。


"Research: What Fragile Masculinity Looks Like at Work?" HBR.org, January 26, 2023.