9. 耳を傾け、間を置く

 話を聞いてから間を置くことで、間違いなく敬意が伝わる。「あなたは見られ、聞かれ、理解されるに値する」というメッセージを相手に伝えることになるのだ。他者の存在を認める手段として、これ以上に効果的なものはないかもしれない。社内のほかの人々がいる前でこれを行うことで、個人が重要であるという明白なメッセージが伝わる。

 私が知るCEOの一人は、これを非常に巧みに実践している。集中して相手の話に耳を傾け、時には長い間を置く。その場の人たちはしばしば気まずい沈黙を破ろうとするが、彼はそっと手を挙げて、じゃましてはならないというルールを伝える。人はこのような瞬間に励まされ、さらに知恵を絞って貢献しようという意欲を高めるのだ。

10. 的を絞った称賛と評価を与える

 称賛と評価を、より的確に伝えよう。「その洞察はありがたいです」よりも、なぜありがたいのか理由を説明し、さらに的を絞るとよい。「なぜ」の部分が明確になると、その貢献がどのように貴重なのか明らかになる。ひいては称賛された人の行動がいっそう強化され、より深い分析に取り組むようになる。

 次のような言い方も考えられる。「その洞察はありがたいです。我々が注意を向けていなかった、ほかのリスク要因を明らかにするうえで役立つからです」

 筆者が協働したCEOの一人は、根拠のない称賛や無批判な称賛を口にすることを避けている。自分の仕事は、部下のクリティカルシンキング能力を継続的に伸ばすことだと考えているからだ。称賛や評価を控えたり惜しんだりしてはならない。その際には説明と、心からの励ましを添えればよいのだ。

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 CEOは絶対的な支配者になるべきではないが、その場にいるだけでパワーダイナミクスを左右する。この機会を利用して、ダイナミクスを意図的に設計しよう。恐れを生じさせたり、称賛を求めたり、真実よりもヒエラルキーが重んじられることを許したりすれば、CEOの役割を放棄することになる。

 だが、場を解放し、心理的安全性を醸成すれば、CEOの役割は強化され、その影響力とインパクトは拡大する。『クリスマス・キャロル』の登場人物、フェジウィッグのインパクトに関するディケンズの描写を覚えておこう。

「あの人は、おれたちを幸せにすることも不幸せにすることもできる。仕事を軽くすることも重くすることも、楽しくすることも苦しくすることもできる。その力はことばや表情に宿っているんだよ。数えあげられないほど細かいこと、ささやかなことに宿っている」(ディケンズ著、越前敏弥訳『クリスマス・キャロル』角川文庫)


"How a CEO Can Create Psychological Safety in the Room," HBR.org, January 23, 2023.