6. プロジェクトマネジャーの新しい役割
現在の仕事の重要な部分を自動化することに不安を覚えるプロジェクトマネジャーは少なくないだろう。しかし、成功するマネジャーは、そうしたツールを自分の利益になるような活用方法を学ぶ。プロジェクトマネジャーの仕事がなくなるわけではない。ただ、こうした変化を受け入れ、新しいテクノロジーを活用する必要があるのだ。現在の私たちが考える機能横断型プロジェクトチームとは、個性ある人間の集団だが、そのうち人間とロボットで構成される集団と考えるようになるかもしれない。
未来のプロジェクトマネジャーは管理業務から遠ざかるので、むしろ強力なソフトスキルやリーダーシップ能力、戦略的思考、ビジネスの才覚を養うことが必要になる。期待される利益の提供と戦略的目標との一致に集中しなければならない。また、新しいテクノロジーをよく理解することが必要だ。すでにAIをプロジェクトマネジメント教育や認定プログラムに取り入れている組織もある。ノースイースタン大学はカリキュラムにAIを取り入れ、AIを活用したデータの自動化と改善や、プロジェクトの投資価値の最適化をプロジェクトマネジャーに教育している。
データと人が未来を現実にする
こうした新たなツールが各組織にとって実用的になった時、あなたは自分の組織でこれらを受け入れる準備をどのように進めていくだろうか。AIの導入はデータから始まるが、人の準備も怠ってはならない。
AIアルゴリズムにプロジェクト管理を学習させるには、大量のプロジェクト関連のデータが必要である。組織が貴重な過去のデータを山のように持っていたとしても、多種多様なファイルフォーマットで何千もの文書に保存され、別々のシステムに点在しているかもしれない。情報が古くなっていたり、分類法がまちまちだったり、外れ値や欠落があったりするかもしれない。MLアルゴリズムの活用に向けた準備時間のうち約80%は、データ収集とデータクリーニングに集中する。この作業によって、構造化されていない生のデータが、機械学習モデルのトレーニングに使える構造化データに生まれ変わるのである。
利用可能で適切に管理されたデータなしには、AIを使用した組織変革はけっして起こらない。さらに、あなた自身とチームも変化に備えなければ、変革は成功しない。
この新世代ツールは、単にプロジェクトマネジメントに使用するテクノロジーを変えるだけに留まらず、プロジェクトにおける人間の仕事を一変させるだろう。プロジェクトマネジャーは、チームがこの移行に適応できるようにコーチングし、トレーニングの準備をすべきである。人と人とのやり取りをますます重視する一方で、メンバーのテクノロジースキルの欠点を早い段階で見つけて対処することが必要だ。また、プロジェクトの成果物だけでなく、パフォーマンスの高いチームづくりにも注力しなければならない。チームのメンバーが最高の状態で仕事をするために必要なものを得られるようにすることが大切である。
プロジェクトやプロジェクトマネジメントの実践にAIを適用することを真剣に考えているならば、以下の質問は決断を評価するのに役立つだろう。
・最新ステータスの更新を含め、すべてのプロジェクトの正確な一覧を作成する時間を取ることはできるか。
・プロジェクトのデータを収集し、クリーニングし、構造化するためのリソースに数カ月間の投資ができるか。
・月例の進捗状況報告書など、旧来のプロジェクトマネジメントの習慣を捨てる覚悟はあるか。
・プロジェクトマネジャーたちにこの新しいテクノロジーをトレーニングするという投資の準備はできているか。
・プロジェクトマネジャーたちはこれまでの安全地帯を離れて、プロジェクトの管理方法を根本的に変えることに前向きであるか。
・新しいテクノロジーを受け入れて採用し、リスクの大きい意思決定においてもテクノロジー主導で実施する覚悟が組織にあるか。
・このテクノロジーが組織のためによりよいパフォーマンスを学習する間、誤りを許容する覚悟があるか。
・プロジェクトマネジメントにAIを適用するという、このプロジェクトのエグゼクティブスポンサーは、組織の中で変革を主導する能力と信用を有しているか。
・上級リーダーは、自動化のメリットが目に見えるようになるまで、数カ月から1年間は待つという意志を持っているか。
このすべての質問に対して答えがイエスならば、あなたはこの先駆的な変革に取りかかる用意ができているということだ。もし1つ、または2つ以上、ノーがあるなら、それをひっくり返してイエスにする努力をしてから、先に進むべきである。
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これまで見てきた通り、AIをプロジェクトマネジメントに適用することには大きなメリットがある。業務管理や価値の低いタスクが自動化されるだけではない。さらに重要なのは、AIや破壊的変革をもたらすほかのテクノロジーを道具として持つことにより、組織とそのリーダーやプロジェクトマネジャーがさらに首尾よくプロジェクトを選択し、定義し、実施できるようになることである。
冒頭の物語のCEOは、かつて現在のあなたの立場にいた。ぜひこのプロジェクトマネジメントの明るい未来のビジョンに向かって、最初の一歩を踏み出していただきたい。
"How AI Will Transform Project Management," HBR.org, February 02, 2023.