着手する前に、つらい感情に向き合う
リソースの削減を決断する時は、感情的なハードルが伴う。従業員があなたのアプローチに不安や疑念を抱いていることをあなたはすでに知っている。特にレイオフを伴う場合、決定後に直面する憤りや士気の低下を思うと不安になるかもしれない。また心の深いところで、従業員に与える苦痛や、自分が犯したかもしれない誤り、経費の抑制に失敗したことに対する罪悪感を覚えているかもしれない。こうした感情の累積を放置すると、必ずあなたの意思決定に悪影響を与える。経費削減に着手する前に、感情と真正面から向き合うことが大切だ。
同じような立場で、信頼できる人を見つけて、あなたの気持ちを率直に話してみよう。人によっては、日記などを書くことが感情処理の助けになる。この感情を吐き出す方法を見つけて、事態を悪化させるリスクを最小限に留めよう。
そのような対処をしないリーダーには、組織に感情的負担を負わせる2つのリスクがある。一つは、自分が被害者であるかのように決断の痛みを公に語り、罪悪感を伝えるというものだ。エグゼクティブの見せかけの涙と苦悶の動画が広まり、かえってひんしゅくを買った例は無数にある。従業員はリーダーがその前に見せた冷淡さに激しく憤慨しているからだ。
もう一つは、リーダーが「少なくとも我々は~」とか「~については感謝すべき」と前置きして衝撃を和らげようとするものだ。あなたの目標が、リソースの削減を甘んじて受け入れなければならない人々との関係を維持することならば、自分の感情に、そして従業員の感情にも、正面から向き合うべきだ。謙虚さ、心からの共感、思いやりは、あなたの選択を伝え、実行するに当たって不可欠である。
未来の文化を守る
厳しいリソースの削減を行った後、組織の文化に何らかの影響が及ぶことは避けられない。それでも最小限に留めることはできる。2022年まで「業務遂行に不可欠」だったものの優先順位を下げたり、従業員が享受していた特権を制限したり廃止したりするのだから、どうしても信頼関係には亀裂が入る。同僚が去らなければならない場合は特にそうだ。長期的な信頼が損なわれる2大要素は、プロセスの透明性の欠如と、リソースに釣り合うように仕事量の削減を行わないことである。両方とも、事態の悪化に追い打ちをかける。
どのように削減するのか、何が基準になるのか、誰がどのような理由で関わるのか、いつ決定されるのかについて、できる限り透明性を保つ必要がある。プロセスが謎に包まれていればいるほど、人々は不公正さ、でたらめさ、能力の不足などについて好きなように話をつくり上げる。その過剰な警戒心は、決定が下された後も長く残るだろう。透明性を必要最小限に留めれば、訴訟や離反のリスクも最小化されると勘違いしている企業がある。現実はその逆だ。あなたのプロセスや動機を信用できなければできないほど、従業員は最悪を想定し、報復を望むようになる。何をどのように削減するのかを従業員が妥当な範囲で見通せるようにすると、たとえその選択が意に沿わなくても、背後にある困難を理解することができるだろう。
次に、リソースに釣り合うように仕事を減らす必要がある。「より少ないもので、より多くを成せ」という考え方は不幸しか生まない。将来の企業文化に取り返しのつかないダメージをもたらすだろう。とりわけ、人員整理を伴う場合がそうだ。生産性や成果のどの部分に影響が及ぶのか、という視点から、一つひとつのリソース削減を精査することが大切である。予算や人員が減っても現在のレベルの業績を維持できることを正当化するリーダーは、持続不可能な成果を維持することと引き換えに、企業文化を犠牲にしているのである。