難しい決断に従業員を関与させる

 難しい選択をしなければならない時、誰かに干渉されたくない、または小規模なタスクフォースで大きな問題を解決したいと直感的に思うかもしれない。ある場合には、望む結果にはならないという厳しい現実から従業員を「守る」という名目でそのようにするかもしれない。

「事業の全容を把握しているのは自分たちだけだ」という上級リーダーのエゴのため、あるいは「だからこそ高い給料をもらっている」という理由で、そうすることさえあるだろう。こうした正当化にはいくらかの利点があるかもしれないが、結局はコスト削減を失敗させる見当違いの考え方だ。

 コスト削減の作業に組織内のより多くの人を関与させるべき理由は、いくつかある。第1に、現場に最も近い人こそ、どこを削るべきかについて理にかなった選択のできる適任者なのである。現場は常日頃から余剰や無駄に接しており、もしかしたら、あなたが対応に踏み出すよりもずっと以前から警鐘を鳴らしていたかもしれない。第2に、組織の複雑さを理解している人は、削減を何度も繰り返したくないので、あなたよりも厳しい目で予算を見ていることが多い。

 そして第3に、従業員は適切な仕事を維持し、コスト削減の機会を見つけることにおいて、あなたよりも準備ができていて、あなた以上に時間や労力も注いでいる。毎日、それを仕事として生活しているのだから。もし従業員に、組織のリソースをより効果的に管理しつつ、自分の生活を向上させる決定を下す権限と責任を与えたら、単に短期的利益のためでなく、未来のために率先して新しく斬新な考え方を提供するだろう。

 コスト削減という困難な仕事に関わることで、従業員自身も受け入れなければならない厳しい決断に対するコミットメントを高めるのである。

重要な人材に注力し、後悔が残る損失を回避する

 コスト削減は必ずと言ってよいほど、従業員に関連する厳しい選択を意味する。特に繁栄と成長の時期であれば、会社はなかなか従業員の解雇に踏み切れない。一方、長年見逃してきた成績不振者を解雇する根拠として、事業の規模や経費、人員を減らす必要性を用いてはならない。成績不振者の解雇はコスト削減ではない。臆病による対処の遅延にすぎず、むしろごまかしの文化を定着させることになる。

 能力の低い人材に無意味に固執するよりも、こうした決定によって自信を失いかねない優秀な人材を見極めて、投資することに時間を使うほうがよい。問題の解決のため、また会社の将来のために、優秀な人材の信頼と会社に留まる確約を得ることに労力を割こう。

 従業員を削減することは、いつでもつらいものだ。しかし、残すべき人を誤った場合であれ、最も優秀な人材に働きかけることを怠り、退社させてしまった場合であれ、コスト削減が大きな「後悔の残る損失」を招いてしまったなら、その影響は将来にわたって長く続く。

責任なき成長から教訓を学ぶ

 最後に、コスト削減の痛みから学ぶことが大切である。多くの企業、特にテクノロジー分野の企業は、過去2年間の成長の機会を浪費したことで、いま、面目を失っている。ハイテク企業の無責任さのために、何万人もの人々が失業に追い込まれた。予算の肥大化や十分活用できなかった過剰雇用、あるいはただの気まぐれな投資が、どの領域にあったのかを、しっかりと見つめ直そう。

 そのような決定は、成長の持続性についての誤った推測、自信過剰(傲慢とも言える)、必要のないリソースを求めて強い圧力をかけた人々の利己心の表れである。謙虚になり、そもそもなぜコスト削減に追い込まれたのかを考え抜く必要がある。この教訓を活かし、あなたが教訓に沿って行動するのを助けてくれる将来のリーダーを育て、状況が好転したら、二度と同じ問題を繰り返してはならない。

* * *

 コストの削減はいつでも難しい。もし予算と収益のバランスを取るために難しいトレードオフを行わなければならないならば、あなたが実現したい未来をしっかりと見据えることが大切だ。それが、実際にそこに到達するための唯一の希望なのである。


"When Cutting Costs, Don’t Lose Sight of Long-Term Organizational Health," HBR.org, February 07, 2023.