どこからでも働けることを証明する

 次に、すでにリモートワークをしている場合でも、その仕事を必ずしも「別の場所」でしてもよいと、雇用主が考えているとは限らないことを忘れてはならない。たとえば、同期型コミュニケーションが多い仕事の場合、チームや顧客と同じタイムゾーンにいる必要があるかもしれない。

 また、行政の仕事を請け負ったり、機密情報を扱う企業では、備品の海外持ち出しを禁止する規程があったり、法律によって従業員の出張が制限されていたりする場合がある。税金やコンプライアンスによる制約、労働法やセキュリティ上の問題から働くことが禁止されている地域もあるかもしれないが、そもそもデジタルノマディズムに対する不安や誤解から、快く思わない上司もいる。

 これらの問題の中には、克服できるものもあれば、対処が難しいものもある。だが、どっちがどっちなのかは、やってみなければわからない。そのため、上司だけでなく、人事や法務、ITなど、「どこで仕事をするか」を気にする部署にも相談することになる。彼らの懸念を真摯に受け止め、建設的に(説得力のある反論や、提示した案の見直しなどにより)対応するよう最善を尽くそう。

 たとえば、時差が問題であれば、近いタイムゾーンの場所を選ぶとか、夜遅い時間の対応を約束するなどし、3カ月の滞在では不安だというのであれば、1カ月半なら少し安心してもらえる可能性がある。また、海外がどうしても無理ならば、国内で手を打つのが賢明かもしれない。

 多くの人が打開策を見つけている。しかし、どうしても雇用主の理解が得られない場合、残る選択肢は、デジタルノマドの夢を諦めるか、あるいはさらに柔軟な働き方を認める新しい仕事を探すか、だ。つまり、いまの組織の中での異動か、転職か、いっそのことフリーランスになるか、である。フリーランスという選択肢は、デジタルノマドの間で、ますます一般化しつつある。だが、どのように働くにしても、「お金を払う人」の賛同は必要だ。クライアント、上司、パートナー、誰であっても、その期待値をコントロールし、移行計画を立てるのは自分であると認識し、積極的なアプローチを取ることが重要である。

ステップ3. 詳細を詰める

 安全性、合法性、仕事の許可といった基本的な条件は言わずもがなだが、デジタルノマドとして成功するためには、考慮すべきことがまだまだ数多くある。そこで、いつどこへ行くかがだいたい決まったなら、自分自身と仕事上のニーズを満たすための戦術的で計画的なステップについて考え始める時だ。

ワークスペース

 講演者や講師として働く筆者は、オンラインで基調講演や講習を行うことがよくある。そのため筆者にとっては、信頼できるインターネット接続、仕事専用のエリア、会議用の静かな個室が何よりも必要だ。そこで講演を行ったり、秘匿性の高い仕事の計画について話し合ったりするためだ。

 人によっては、疲れを感じにくいエルゴノミクスチェアやスタンディングデスク、ノイズキャンセリングヘッドホン、照明器具など、さまざまなニーズがあるだろう。特殊なソフトウェアや機器を使用している場合は、IT部門に問い合わせて、海外で使用できることを確認し、機器や充電器のバックアップを持参することも検討しよう。職種(人)によってニーズは異なる。だからこそ、自分がよい仕事をするために何が必要かを考え、そのうえで何を持っていくことができ、何を現地で調達するかを確認しよう。

インターネット

 ほとんどのデジタルノマドにとって、信頼できるインターネット接続環境は不可欠だ。可能であれば、滞在先でバーチャルライブのスピードテストでWi-Fiをテストし、滞在場所のWi-Fiに問題がある場合に備えて、近くのコワーキングスペースやカフェを調べておこう。また、現地のSIMカードを購入して、通話やデータ通信を行う方法もある。カフェや空港など公共のWi-Fiネットワークを利用する場合は、インターネット通信のセキュリティを確保するために、必ずVPN(バーチャルプライベートネットワーク)を利用しよう。

お金

 万一財布を盗まれたり、クレジットカードが使えなくなったりしたら、どうするか。何の対策も考えていなかったら、実に恐ろしい事態だ。だから事前にバックアップを用意しておくことが重要である。銀行のトラベルポリシーについて問い合わせる、カードをもう一枚つくって安全な場所に保管する、非常用の現金を持参するなどを検討したい。また、銀行が現地のATMと提携しているか、それによって取引手数料が節約できるか、Apple PayやAlipayなどのアプリが使えるかといったことも調べておくとよいだろう。

医療

 法律で定められた最低限の医療保険だけでなく、補償を追加することを検討しよう。旅行保険や医療保険は、それぞれにサービス内容や条件が大きく異なり、最近では、デジタルノマドやフリークエントトラベラー向けの保険を提供している会社もある。英語を話す医師や専門的な治療など、特別なニーズがあるかどうかをよく考え、現地でそのニーズが満たされるように自分でよく調べておこう。

 それと関連して、いつも飲んでいる薬があれば、必要な分を荷物に入れる。旅先で処方してもらうことを考えているなら、現地の薬局で可能かどうか確認しておく。また、自国では一般的な市販薬でも、海外では入手困難な場合もあるので、確信が持てない時は、少し多めに持っていこう。