体験談4
この戦争は、ウクライナ人にとっても国家にとっても大きな悲劇だ。しかし、またとない機会でもある。なぜなら、国家がこれほど団結したことは過去になかったからだ。これは国を前進させ、国に投資し、戦争終結後に真の先進国に仲間入りする準備を整えておくチャンスといえる。
この国にはプロフェッショナルな軍隊がおり、素晴らしい仕事をしていることは誰もが理解している。だから、私たちも自分の仕事を全うすべきだ。この点を理解した時点で、私自身もチームも焦点が明確になり、支援する起業家たちを支える創造的な方法を模索し、新たな需要に合うプログラムを開発したいという思いに駆られた。戦後、ウクライナでは多くの優秀な人材が必要になる。この国を引っ張る次世代の若き起業家の育成を支援することが、私たちの役目である。
──イワン・ペトレンコ(リビウ)
エンジェル・ワン・ベンチャーファンド マネージングパートナー、 CfE アクセラレーターCEO
共感
筆者らがインタビューしたリーダーたちが一貫して強調したのが、共感が自分たちのアプローチの中心にあるという点だ。苦境に立たされた従業員に経済的支援を提供したり、燃え尽きてしまった従業員に休暇を取得するよう説得したり、ひたすら従業員の話に耳を傾けたりしている。ある経営者は、息子が東ウクライナの前線に出征している運転手から、息子の話を聞く時間を定期的に確保していると語り、「司祭みたいな役割だ」と冗談を交えながら語った。
一方で、彼らは共感の限界についても語ってくれた。自分自身が同じような経験をしていない限り、家や愛する人を失った人の気持ちを完全に理解するのは難しいという。
体験談5
同僚と話をする時には、仕事の話だけでなく、人間同士として会話をすることが多い。相手も、私が仕事上だけでなく個人的にも彼らのことを考えているとわかり、自然に心を開いてくれる。それが、希望や前向きな気持ちにつながるのだ。
たとえば、戦争勃発前に、自分の車を従業員にツケ払いで売ったことがあった。彼女は分割で返済するつもりだったが、戦争が始まると、返済不要と伝えた。結局、あの車が彼女夫婦にとって大きな助けになった。車は四輪駆動で、それがなければキーウから脱出できなかったかもしれない。そうしたことの積み重ねで、周囲に人が集まってくる。
私は、同僚やパートナーたちと常に連絡を取り合ってきた。彼らがどのようなことに直面しているのか、どのような生活を送っているのかも知っていたので、彼らの身の安全を常に気にかけていた。ビジネス上の問題もないわけではないが、それは二の次だった。
──エベン(キーウ)
穀物・油糧種子の貿易企業 創業者兼ゼネラルマネジャー
体験談6
とにかく、部下の声に耳を傾けるべきだ。単に相手の言葉を聞くのではなく、彼らが実際にどのような状況にあるのか、神経を研ぎ澄ませて耳を傾ける必要がある。
小さな子ども2人を抱えたチームリーダーがいて、彼女の母親はロシアに占領されたミコライフ近郊に住んでいた。彼女は素晴らしい女性で、とても強靭なマネジャーだったが、さまざまな事情が重なって、ストレスが高じている様子が見て取れた。しかし、人は時として、自分では自身の状況の深刻さに気づけないものだ。最初は「大丈夫だ」と言い張っていたが、対話を重ねて話を聞くうちに、どれほどの負担を抱えているのか自覚できたようだ。そこから、会社として何ができるか、チームとして前に進むにはどうすべきかを一緒に考えることができた。
何と言われても、それが私のやり方だ。私たちはみんなで、ワンチームなのだから。相手がフリーランスかフルタイムか、若いか年配か、マーケターかエンジニアかにかかわらず、対応の仕方を変えるべきではないと考えている。停電になると、カフェもフリースペースも満杯で、フリーランスの人がワークスペースを見つけられなかった。そんな時は、チームに依頼してワークスペースを用意してもらった。あるクライアントは、そんなことは我が社の仕事ではないと思っていたようで、驚いていた。しかし、人によって優劣があるかのように、チーム内で扱いを変えるなんて信じられない。私たちは皆、人間であり、互いを思いやり、この難局に一緒に立ち向かっている。
──ナタリア・トカチョワ(オデッサ)
テックマジック プロジェクトマネジャー兼チームリーダー