感謝
筆者らがインタビューしたリーダーのほぼ全員が、悲劇的な日々の中で深い感謝の念を抱く瞬間を共有していた。彼らは、一瞬立ち止まって、自分の人生におけるポジティブな側面を意識することで、その先も頑張るためのエネルギーやモチベーションを持ち、楽観的になれたと語る。実際、感謝の念を表現するだけでストレスが軽減され、対人関係が改善し、健康増進にもつながるという研究結果もある。
体験談7
私は、グローバル企業がウクライナでテック系人材を採用する際、支援を行う人材紹介会社を経営している。戦争前は「米国の皆さん、あなた方が開発者にいくら払うか知っていますよ。ウクライナでは、同レベルの人材が半額で雇えます」というのが我が社の売り文句だった。
ところが、戦争が始まると、ウクライナ人の開発者を雇ったり、ウクライナ国内にオフィスを設けたりするのはリスキーすぎると考えるクライアントが増え、多くの仕事が失われてしまった。本当につらい時期で、先の見えないことばかりだったけれど、感謝すべきものが多々あることもわかった。
私のチームは、会社の存続に必要なことは何でもやろうとする素晴らしいチームだった。そしてもちろん、前線で国を守ってくれる人々のおかげで、私たちが仕事を続けられ、クライアントのために価値を生み出すチャンスを得られていることにも心から感謝している。大変な時期もあったが、いまこうしていられるのは本当に幸運だ。国のために日々、命を削っている人がいるのに、私が文句を言うなんておかしな話だ。
些細なことにも、これまでとは異なる新しいレベルで感謝することを学んだ。たとえば、最初の数日間は経済全体が止まってしまい、スーパーの棚は空っぽで、1歳の子のオムツさえ買えなかった。ある日、オムツが手に入ると、以前なら当たり前だったものが手に入ったことの喜びを感じられた。
16時間の長時間労働を終えてベッドに入る時に、妻に「いま、とても幸せな気分だ」と言ったこともある。疲労困憊だったが、仕事に対しても家族に対しても、その日できる限りのことをした、という気持ちだった。そして、もしこんな風に一生を過ごせたら、幸せな気持ちで死ねるだろうと思ったのを覚えている。
――ボグダン(リビウ)
テック人材紹介会社CEO
体験談8
私はエドテックのスタートアップを率いているが、社内のチームも我が社のプラットフォームで教える教師陣も素晴らしいメンバーだった。誰もが難局に適応し、停電の間、地下室から授業をしてくれた人までいた。
ただ、2022年2月28日に新たな出資を受けるはずだったが、当然、それは実現しなかった。しかも、我が社は戦争が始まると同時に、家を追われた人々の助けとなるよう、受講生にプラットフォームへの無料アクセスを提供した。だから、資金繰りには苦労した。
それでも、いまだに時折、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。今朝もそう。自宅にいて、美しい冬の情景に包まれて。夫も一緒にいて、朝食を済ませたばかり。こんな朝は、ささやかな休日のように感じられる。だって、生きているのだから。それに、こんな美しい景色を見られて、チームや家族と一緒にいられるのだから。
しかも、私たちは仕事を通じて多くの人を助け、人々にインスピレーションを与え、世界中の学生や先生をサポートできる機会に恵まれている。そんな風に思える素敵な日が時々ある。
──ナタリーア・リモノバ(キーウ)
GIOS(学生と教師のためのインタラクティブな数学プラットフォーム)の創設者兼CEO
"Leading Business in Ukraine During the War," HBR.org, February 24, 2023.