パーパス

 筆者らが話を聞いたリーダーたちは、事業の継続に共通のパーパスを見出していた。人々を雇用して税金を納めること、ボランティア活動や寄付を通じて医療救援活動や難民の再定住プログラム、軍事支援基金に貢献すること、そしてウクライナ国民の日常を支える製品を開発することによって、戦争活動を支援するというパーパスである。

 たとえば、エドテック・プラットフォームを展開するジオスのCEOであるナタリーア・リモノバは、投資家に事業プランを提案する際に、ウクライナ支援基金への寄付を呼びかけるようになった。おかげでウクライナへの国際的な支援を得ながら、自社の資金調達ができるようになったという。ビジネスリーダー仲間から寄せられた寄付について振り返る姿から、彼女の思いがひしひしと伝わってきた。

 また、ジオスは他のいくつかのウクライナ企業と同様、国民に自社の製品やサービスを無償で提供した企業でもある。こうしたリーダーたちは、困難な状況にもかかわらず、強い目的意識があったおかげで、過酷な時期にも人々のモチベーションを高め、団結させることができたと語ってくれた。

体験談3

 最近の推計によれば、ウクライナ国民の90%にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状があるという。この国では、メンタルヘルスの問題は米国や欧州ほど広く知られておらず、自分が助けを必要としていることを認めたがらない人が多い。だから、我が社のプログラムを受講したおかげでよく眠れるようになったという顧客の声を耳にしたり、ストレスや不安、鬱に役立つリソースを無償で提供できたりした時には、自分たちのミッションの重要性を実感できる。

 とはいえ、戦争が始まると、会社の新たなビジョンを明確にする必要に迫られた。軍は前線で軍事上の勝利を目指して戦うが、私たちも経済の最前線で戦っている。これは単なるビジネスではなく、国を支える手段なのだ。

 会社が安定していて順調な時期には、もちろん顧客の生活向上に尽力するが、同時に軍に寄付し、税金や給料を払い、ウクライナの優秀な頭脳が職を求めて国外に流出せずに自国に留まれるよう、雇用を創出する。私は武器よりもノートPCで国家に貢献している。

 私の肩書きはCEOだが、最近はむしろチーフエネルギーオフィサーに近い。士気を高め、チームのバッテリーを充電し、互いを支え、ビジネスと国家を支えるよう人々を鼓舞する──あらゆる手段を駆使して──。それが私の仕事だ。

──ビクトリア・レパ(キーウ)
ベターミー(健康・フィットネスプラットフォーム)CEO

 また、筆者らがインタビューしたリーダーたちは、人材の確保と育成、経済再建、農業をはじめウクライナ経済が甚大なダメージを受けた部分を埋める新産業の育成など、国家の未来づくりに尽力することにもパーパスを見出していると語っていた。