本稿執筆時点では、SVBの最も可能性が高い処理方法は、分割されて複数の金融機関に売却されることのように見える。しかしそうなれば、スタートアップは損害を被るだろう。多くのスタートアップが、クリーンテックやライフサイエンスや深層技術の開発資金として利用していたデット(負債性)ファイナンスが難しくなり、コストも高くなる。そうなれば技術開発のペースが落ち、閉鎖に追い込まれるスタートアップも増えるだろう。
多額の資金を調達する企業は、今後は、その資金をいくつもの銀行に分散して預けることになり、資金管理がやっかいになるだろう。そうなれば、スタートアップのCFOの役割は、これまで以上に重要に(そして複雑に)なる。また、VCはスタートアップにどれほどの手元資金が残っているかにさらに注意を払うようになり、これまでよりも小規模な投資ラウンドに力を入れるようになる可能性が高い。するとスタートアップにとっては手続きが複雑になり、ハードルも高くなる。さらに、企業価値の評価や投資ペースも影響を受ける。スタートアップとテクノロジー業界にとって、2022年はリセットの年だったが、SVBの破綻は通常の資金調達の再開を難しくするだろう。
スタートアップ業界は、今後どのような事態を覚悟すべきなのか。素晴らしい時代がやってくるのか。それはSVBの破綻処理に左右されることになる。SVBがやっていた事業のいずれかに参入する銀行は間違いなく出てくる。SVBのローンポートフォリオへの入札をもくろむプライベートデットファンドもある。ウェルスマネジメントなど、SVBの一部門を購入しようとしている金融機関もある。大手銀行の多くは長年、スタートアップ・コミュニティでプレゼスを拡大したいと考えてきた。スタートアップを顧客に持てば、莫大な利益を期待できるIPO(新規株式公開)の引受人を務められる可能性もある。したがって、VCとスタートアップのセクターには行き場が残されている。
だが、SVBはこの業界に多くの触手を伸ばしたことで、数十年にわたり、この業界の人材や問題点、進化するニーズに関する知識を蓄積してきた。ほかの銀行がそれを完全に再現することはできない。SVBを丸ごと買収しない限り、SVBのようなエコシステムの役割を担える銀行は出てこないだろう。SVBのような商品やサービスを再現することは、大手金融機関にもできる。しかし、SVBの暗黙知の大部分は、SVBが構築した人やネットワークに埋め込まれていた。それらがばらばらになれば、再現することは事実上不可能だろう。
SVBの破綻は、中堅・専門銀行の役割について難しい問題を提起している。それぞれが持つ特有のリスクは軽減する必要があるが、SVBが示すように、これらの銀行は重要な恩恵ももたらす。この場合、最も破壊的でなく、SVBが有した専門性の恩恵を維持できる解決策は、SVB全体の買い手を探し、これまで提供してきたものと同じタイプのサービスを継続させることだ。そうすることでバランスシート上のリスクははるかに低く抑えられる。SVBを管理する米連邦預金保険公社(FDIC)の誰かが耳を傾けてくれるのであれば、それが価値を維持する最良の選択肢だと筆者は考えている。
"Silicon Valley Bank's Focus on Startups Was a Double-Edged Sword," HBR.org, March 17, 2023.