諸刃の剣だったシリコンバレー銀行の顧客戦略
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サマリー:シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻により問われていることは、SVBがこれまでもたらしてきた恩恵をいかに維持するかである。SVBの経営幹部と長年交流のあった筆者によれば、SVBを丸ごと買収することができる買い手... もっと見るがいれば、SVBの価値を維持することができるという。一方、SVBの機能を部分的に買収したところで、SVBが有する価値は分散し、これまでのような恩恵は損なわれると指摘する。 閉じる

SVBの価値を維持することは可能か

 経営破綻したシリコンバレー銀行(SVB)について、その顧客が一つのセクター、すなわちベンチャーキャピタル(VC)とスタートアップに著しく偏ってきたことが破綻リスクをいちだんと大きくしたという指摘がある。これは正しい見方だが、こうした集中がもたらすメリットについては、あまり語られていない。規制当局やVC、そしてSVBの買収候補がSVBの状態を詳しく把握しようとするなか、物事の両面を理解することが重要だ。

 たしかに、SVBの事業がたった一つのセクターに集中していたことは、リスクを増大させ、崩壊の最大の要因となった。SVBの問題は、スタートアップの資金調達が急増したために、預金が大幅に増えたことから始まった。SVBの顧客間のつながりが極めて濃かったことも、取り付け騒ぎの起こりやすさにつながった。もし、預金も融資も多角的であれば、あるいは、SVBが大手金融機関の小さな一部門なら、取り付け騒ぎが起こるリスクは大幅に小さかっただろう。金融の基本原則の一つは、「分散投資は個別リスクを小さくする」である。

 だが、ストーリーはそこで終わりではない。SVBがスタートアップの大きな力となることを可能にした、セクターに特化することのメリットも認識する必要がある。筆者は30年以上にわたり、SVBとその経営幹部の多くと交流があり、VCとテック系スタートアップに集中したことが、この業界にとってどのような意味があったのかを熟知している。

 SVBはスタートアップ・コミュニティに特化して、そのコミュニティのニーズを理解し、そのニーズに合った商品とサービスを提供してきた。スタートアップやVCのために負債性の資金を提供する「ベンチャーデッド」や現金管理、そして新たに財を成した起業家の資産管理まで、SVBはスタートアップ・エコシステムにおける資本のライフサイクル全般を理解することに注力し、このコミュニティの無数のニーズに応えるビジネスを構築してきた。

 このビジネスモデルは、シリコンバレーという地理的な制約を超えて、価値があることがわかっている。SVBは、スタートアップ業界のニーズを真に理解していたから、イスラエルや欧州のハイテク・コミュニティでも大きなプレゼンスを築いていた。

 SVBは、ファンド・オブ・ファンズ(一つのファンドが複数のファンドへ投資する外部委託型の投資信託)を通じて、多くの有力VCの大口投資家だった。また、そのことがSVB自身に根本的な投資トレンドについて重要なインサイトをもたらしてくれた。VCの有限責任組合員として得た情報は、スタートアップと協力したり、融資などのサービスを提供をしたりする時、役に立った。これはスタートアップのエコシステムにとっても大きなメリットだった。

 同じように、SVBが築いたVCやスタートアップとの深い関係は、起業家や投資家にとって重要なネットワーキングの機会にもなりえた。SVBが提供する金融商品やサービスは、急速に変化するテクノロジー業界のニーズに応じて進化した。SVBは、そのエコシステムの重要な一部であり、この業界の成熟と成長にとって極めて重要な存在だった。SVBは幅広いネットワークを通じて、スタートアップや創業者について個人的なインサイトを持っていたから、迅速かつ効率的に事業を展開することもできた。