マネジャーが思いやりというスキルを養う方法

 ここまで、思いやりが必要な「理由」を述べてきた。しかし「方法」については、どうだろうか。以下では、リーダーやマネジャーが職場でもどこでも、思いやりのスキルを効果的に養うための、科学的根拠のある7つの「処方箋」を紹介したい。

小さなことから始める

 研究によると、思いやりを示すのに多大な時間を割く必要はない。したがって「多忙」は言いわけにならない。実際、ジョンズホプキンズ大学の研究では、たったの40秒間、思いやりを提供しただけで、受け手の不安が緩和されることが数値でも明らかになった。さらに、ペンシルバニア大学の研究では、他者への奉仕に時間を使うと、時間の「豊かさ」についての主観的な感覚が高まり、時間は十分にあり、急がなくてもよいと感じるようになることがわかっている。

感謝する

「感謝の態度」は本人のためになると聞いたことがあるかもしれないが、それはなぜだろうか。メタ分析研究によると、感謝は人を他者志向的にし、他者に奉仕する動機を与える。トロント大学の研究では、日常生活(職場など)には、平均して毎日9回、思いやりを示す機会があるという。感謝の思いがあると、こうしたチャンスを見逃さないでとらえることができる。

目的を持つ

 適切な質問をすること、そして不適切な質問をしないことは大切である。同僚が個人的な問題で悩んでいる時には、「どのように」サポートできるかを尋ねよう。「何か手助けが必要ですか」とか「何か私にできることはありませんか」のように、イエスかノーで答えられる質問は、「ノー」を誘導しているように聞こえがちである。「今日、私が何をするとお力になれるでしょうか」「あなたの気持ちが少し楽になるために、私に何ができるでしょうか」「今日、あなたの負担を軽くするために、私に何ができるでしょうか」と尋ねよう。適切な方法で、適切な質問をすれば、行動に移すことができる回答が得られる場面が増え、驚くだろう。

 筆者の一人は、かつてシリコンバレーの一流テクノロジー企業に勤めていた人から、同社のCEOの意図的な行動について、このような話を聞いた。彼は、従業員の誰かが家族を亡くしたり、過酷な診断を受けたり、つらい時期にあることに気づいたりしたら、どのような時もすべてを中断して、その従業員にすぐに電話をかけ、どのようなサポートができるかを尋ねていたという。繰り返しになるが、「必要かどうか」ではなく「どのように」と聞くことが大切だ。

共通基盤を見つける

「偏狭な共感」とは、自分たちに似た、自分たちのそばの人々に対して特別に優しくなり、思いやりを持つことである。その他の人々(研究では「外集団」と呼ぶ)をぞんざいに扱うことがあるので、全体で見ると、思いやりの行動が減ることがある。また人を助けたり、奉仕したりする多くの機会を閉ざすこともある(1日9回、思いやりを示す機会があっても)。直接的な付き合いのある人々の範囲を超えて、同僚に思いやりを示す努力をして、できるだけ「内集団」を拡大することが大切だ。職場では、全員が同じチームなのだ。 

人の思いやりを見る

 組織の中の思いやりを讃えることも大切だ。ある従業員が人を助けるために「求められる以上」のことをしたら、それを周知する。研究によると、私たちは他の人々の善良さを認識した時、自分が感じるよりも、人々には思いやりがあることを悟り、刺激を受けて模倣するようになる。

高揚する

 高揚感は、思いやりや勇敢な行動を目の当たりにして感情が高まった状態のことである。高揚感は思いやりや利他的な行動の動機になる。しかし、それは諸刃の剣でもある。「すべては自分のため」という有害な考えの人が部屋の中に一人いれば、全員が影響を受ける。研究によると、思いやりと無作法はどちらも伝染する。あなたの行動、特に思いやり、またはその欠如は、他の人々に直接的な影響を与えることを心に留めよう。

自分の力を知る

「あなたの特技は何ですか」と面接で質問したり、されたりしたことはあるだろうか。もし思いやりがあることが自分の特技だったならばと想像してみよう。あなたのキャリアはどうなっているだろうか。人生はどうなっているだろうか。

 自分には無理だと思ったとしても、自分を卑下したり、考えるのをやめたりしないでほしい。世間一般の考えとは異なり、研究は、あなたが変わることは可能であることを示している。ありがたいことに、誰でも成長型の思考態度を維持し、意識して努力するならば、思いやりのスキルを上げることができる。私たちはみんな、未完成な存在だ。うまく共感と思いやりを示せるようになると信じるならば、必ずそうなるだろう。

* * *

 困難な時期に人材の定着率と組織の業務遂行能力を向上させるため、マネジャーは思いやりとは単に「あるとよいもの」ではないと認識すべきである。むしろ、この科学的根拠に基づくスキルは、効果的なリーダーシップを発揮し、チームを一つにまとめるために不可欠だ。思いやりはリーダーシップの技術面のテーマであるだけではなく、リーダーシップの「科学」にも属するテーマであることを研究は示している。


"Leading with Compassion Has Research-Backed Benefits," HBR.org, February 27, 2023.