チームに権限を与える
部下のサポートの仕方について考えを改めたら、次は実践である。
課題に取り組むためのサポートとツールを提供する
技術的な問題であれ、対人的な問題であれ、マネジャーの仕事は、現在と未来の状況に対処するための選択肢をチームで生み出すことだ。部下が課題を提起したら、どのようなサポートが役に立つかを尋ねるが、自分が中心に立つことは避ける。情報不足や環境の不備を補う必要もあるだろうが、解決のためには、チームメンバーに適切な相談相手を紹介するくらいの援助で十分である。
また、自分が持っている会社に関する、あるいは分野特有の膨大な知識を移転する必要がある場合もある。このような場合、チームメンバーが知識をみずからのものにするまで、時間がかかることは避けられない。しかし、時間の投資に加えて、いまのメンバーに将来のメンバーが参照できる資料を作成してもらえば、学習を強化し、チームの知識ベースを強固なものにできるだろう。
課題解決の指南をいっさいすべきではない、と言っているのではない。実際、マネジャーは、システムの影響で問題が生じている場合に、それに気づきやすい立場にあることが多い。もし、そのシステムレベルの問題が、組織の上層部で対処すべき問題であるならば、経営陣や他の幹部と協力して、システムレベルの解決策を見出す必要がある。たとえば、役割や責任が明確でないために、チーム間の摩擦が絶えない場合や、目標が共有されていないために、組織のあちこちで対立や権力闘争が生じる場合などである。このような場合、曖昧さを取り除き、社内の整合を図り、解決策に優先順位をつけるのは、リーダーの重要な役目である。
チームが不安を受け入れ、見通しを持ち続けられるようにする
新しい課題に取り組むことはけっして楽なことではない。どんなに強靭な心の持ち主でも、コンフォートゾーンから一歩外に出ると不安に駆られることがあるものだ。しかし、チームをサポートし、困難な状況に立ち向かう後押しとなるメンタルモデルを示すことはできる。例を挙げよう。
・「安心して挑戦できる」チーム環境を整え、グロースマインドセット(能力や資質は伸ばすことができるという考え方)を取り入れる。
・恐怖心ではなく、好奇心を持って物事にアプローチする模範を示す。
・前提やニーズを明確に伝えることで、推測しながらの仕事を減らす。
物事がうまくいかない時は、解決志向、楽観志向の模範を示す
リーダーがみずから楽観的に振る舞うと、職場が前向きなムードになり、チームメンバーが失敗から立ち直る力になる。マネジャーとして、自力で課題解決できるチームになってほしいと望むなら、トラブルが起こった時に一番やってはいけないことは、「犯人探し」である。力を合わせて失敗を乗り越える組織力を鍛えることが肝要だ。また、誰かを責めるのは無駄なことだが、振り返りを行うことは、チームとして、今後同じような問題を予測し、回避する能力を高め、説明責任の意識を共有するうえで効果的である。
* * *
スーザンにとって、チームを「守る」ことから「支える」ことへの移行は、一大転換点となった。自分が組織にもたらす価値を別の視点からとらえること、実務者から指導者へ立場を変えること、個々の成果だけを見ているのではなく、よいチーム環境やプロセスづくりに注力すること、これらすべての上に、この移行は成り立っている。中心から外へ離れることで、組織がよく見えるようになり、エネルギーをシステムレベルの課題解決に費やせるようになる。傘を捨て、チームに雨合羽を着せるのは簡単ではないが、その価値は十分にある。
*プライバシー保護のため、個人名を変更しています。
"How to Equip Your Team to Problem Solve Without You," HBR.org, March 01, 2023.





