自力で問題を解決できるチームの育て方
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サマリー:新しくマネジャーに就いた人は、みずからのチームを守ろうとする。この姿勢は時間が経つにつれ、チームメンバーの成長を阻害し、マネジャー本人の評価を落とし、組織全体に悪影響を及ぼす。本稿では、マネジャーがチ... もっと見るームを「守る」ことと「支える」ことのバランスをいかにとるか、そしてチームを「支える」マネジャーにいかにシフトするかを論じる。チームを守る「アンブレラマネジャー」ではなく、チームメンバーに雨合羽を着せることで、チームメンバーも、マネジャー自身も成長することができる。 閉じる

チームを守ろうとする善意が悪影響を及ぼす

 ベラスケスのクライアントで、グライツマンのメンティーであるスーザンは、自分のチームを「守る」ことが自分の仕事であるという信念に基づいてマネジメントをしていた。その信念は、善意に基づいていた。彼女は、要求の多い、動きの速い組織の中で、チームがやりがいを持ち、成功することを望んでいた。しかしそれゆえに、チームの盾になろうとして、メンバーと課題の間に割って入ることが多かった。

 その行動は、最初のうちはチームに好感を持たれたかもしれないが、特にチームの責任範囲が拡大するにつれて、意図せぬ影響も招いた。他のマネジャーや他部門の社員がスーザンを協力的でないと考えるようになったのだ。その理由の一つは、彼女が「ブロッカー」のような存在と見なされていたことだった。彼女の行動によって、チームは無力化し、自分たちが戦うべき時にも彼女を頼るようになった。それだけでなく、彼女は重要な決定にすべて立ち会わざるを得なくなった。その重圧が増すにつれ、彼女のパフォーマンスは低下していった。重要なプロジェクトの経過を追えなくなり、冷静に明確な意見を持って会議に出席することができなくなった。その結果、彼女は経営陣から、みずからをコントロールできない不安定な人間と見なされるようになったのだ。

 このような行動を取るリーダーを、筆者らは「アンブレラマネジャー」と呼んでいる。組織のあらゆる天候不良からチームを守ろうとする善意のリーダーである。しかし、このタイプのリーダーシップは、マネジャー本人、チーム、そして企業に大きな犠牲を強いる。

・アンブレラマネジャーは、どんな判断も自分の責任で下さなければいけないと思い込んでいる。すべての仕事を細部まで把握できると考えるのは非現実的だ。マネジャーは万能ではない。さらには、瞬く間に仕事に追われるようになる。その結果、チームは受け身に、そして物事に対して無関心になり、自分たちで判断しなくなる。マネジャーは、協力してくれるはずの人を苛立たせ、意思決定を遅らせるボトルネックとなる。

・チームメンバーは、自力で荒波を乗り越える能力が身につかないため成長しない。チームメンバーは、他部門の人と確固とした関係を築く機会がないため、会社の中で目立たない存在になり、影響力を高めることができない。

・チームメンバーが自力で問題に対処できないと、組織としてのチームの生産性やイノベーション能力が低下する。このような組織が状況の変化に機敏に対応することはほとんど不可能なため、チームは時代に合わない計画に固執し、貴重な時間とリソースを浪費する。

 筆者らの経験では、このような行動は、リーダーになりたての人に珍しくない。初めて高度なチームを率いる人には、「チームへのサポート」と「チームへの権限委譲」とのバランスを見極めるための支援が必要なのだ。

意識を転換する

 今回、スーザンにインタビューを行い、社員を守ることをやめてサポートするようになった気づきの瞬間について聞いた。

 キャリアを重ね、上級のスタッフを管理するようになると、自分のチームのマネジャーが困難に直面した時に、傘よりも、加減を考えてサポートすることが必要なのだとわかってきました。部下を守らなければいけないという考えを捨てて、「傘を差してあげる」より「雨合羽を渡す」ような、別のメンタルモデルを取り入れるようにしたのです。いまは部下と問題の間に割って入るのではなく、部下が自分たちだけで課題に取り組めるように、必要なツールを与えることでサポートをするようにしています。

 社員を「守る」から「支える」へ移行するには、いくつかの重要なメンタルシフトが必要である。

自分の不安と向き合う

 まず、自分のいまの行動の基礎となっている信念を理解する。「守りたい」という意思はどこから来ているのだろうか。部下がプレッシャーに耐えられずに挫折したら、自分の印象が悪くなることを心配しているのだろうか。部下が間違った判断をすれば、プロジェクトの成果に影響し、彼ら自身の成功が危うくなると考えているのだろうか。チームにとっての自分の価値は、彼らの仕事を完璧に代行できるかどうかにかかっている、と思っているのだろうか。

 はたして、社内の他のリーダーも同じような考えで行動しているか、見渡してみるとよいだろう。自分の根底にある信念をどうすれば手放せるのか、納得できる事実の発見に努めよう。さらに、自分のいまのアプローチがチームに害を及ぼしている可能性について考えてみよう。

部下が問題を解決できると考える

 部下自身に課題を解決させることは、部下を信頼し、その能力を信じていることを示すということである。たとえば、部下が課題を提起した時は、手助けしなくても自分で解決策を見つけられる場合が多い。すでに解決策を持っているか、信頼できるパートナーと話し合うことで解決策を導き出せる。そのパートナーになればよいのである。そうすれば、マネジャーとしてリーダーシップ能力を向上させながら、解決策を早く教えすぎることを避けられる。また、そうすることで、チームメンバーが自力で考え、創造性にあふれた解決策を導き出すことを後押しできる。彼らが実行可能な解決策を見つけ、正しい方向性を選択するように、「どのような選択肢がありますか」と尋ねるとよいだろう。

長期的な利益のために短期的なつまずきを受け入れる

 短期的なつまずきは、弱点や機会、改善点に気づかせてくれる学習の機会である。チームの失敗体験(と学習)は、成長や長期的な成功への近道であり、短期的な成果を確実にコントロールするより効果的である。

 スーザンの場合、この点が決め手となって、自分がチームを抑圧していることに気づいたという。

 マネジャーになった当初は、どんな状況においても、確実に結果を出すことが自分の仕事だと思っていました。しかし、さらに大きな組織を管理するようになると、本当に重要な決断を見極めたり、自分やチームが小さな失敗や挫折から立ち直る力をつけたりすることが必要になりました。その視点を持てたおかげで、それまで自分で判断してきたことを人に任せられるようになり、チームの新人リーダーを指導したり、高度な戦略を考えたりする時間を持てるようになったのです。

リーダーシップ能力を発揮する

 リーダーは、成長し、責任範囲が大きくなるにつれて、職能的な知識よりも、リーダーシップ能力が求められる。このアイデンティティの転換に悩むマネジャーは多い。自分が細部まで把握していないと、仕事ができないと思われるのではないかと心配するが、実際はその逆である。

 細部の把握をやめて、どの決定が重要かを見極め、「よい仕事」とはどのようなものかを明確に示し、他の幹部や部門と足並みを揃えることに時間を使うべきである。