ローガンがみずからの成功に対して逆説的な反応を示すのを目の当たりにして、私はある重要なことに気づいた。それは、ローガンの不満は自然に生じたものというより、学習の結果だということだ。
ローガンの脳は、「十分」を正しく評価できないために、不満を抱くことを予測し、その結果として、実際に不満の感情を経験することが習慣づいてしまっているのだ。ローガンは新しい1年を迎えるに当たり、すべての目標を達成した場合に(あるいは目標以上の成果を上げた場合に初めて)満足できると、自分自身に言い聞かせていた。裏返して言えば、すべての目標を達成できない限り満足できないという前提で1年を始めていたのである。
もし不満の感情を抱くことが学習できるのだとすれば、満足の感情を抱くことも学習できるはずだ。「~という結果を得られた場合に、私は満足できる」と考えると、富や地位やその他の「勲章」と満足感を不健全に結びつけ、そうした外的な要因に満足感が大きく左右されてしまう。そのような発想を捨てて、「~という行動を取った場合に、私は満足できる」という考え方に転換し、満足感を持つことを一つのスキルとして、言い換えればその方法を学習できるものと位置づけたほうがよい。要するに、成功と満足を切り離して考えるべきなのだ。
具体的には、もしローガンが1年の始めに、「素晴らしい仲間たちと一緒にやり甲斐のあるプロジェクトに取り組めば、私は満足できる」とか、「自分の才能を生かして自分自身を輝かせ、さらにはまわりの人たちがそれぞれの才能を生かして輝く機会をつくり出せれば、私は満足できる」などと考えていれば、どうだっただろうか。そのような発想で臨んでいれば、満足感を味わうかどうかが外的な要因に左右されなくなり、自分自身の選択によって決まるようになる。したがって、人生で長く満足感を抱き続けたいのであれば、満足感に対する考え方を学び直す必要があるのだ。
「十分」についての判断基準を修正する
満足できるはずの状況で不満足に感じ、その状況を打開しようとして、そもそも不満足な状況をもたらした行動をさらに繰り返す。このような行動パターンに陥りがちな人は、満足という感情との付き合い方を見直したほうがよい。自分の状況に不満を感じていると、大切な人間関係に悪い影響が及ぶ可能性が高い。その点を考慮すると、満足という感情との付き合い方を見直すことはとりわけ重要だ。
そこで、まず不満足な感情を生み出すメカニズムを解体することから出発して、満足感を抱くことを学習する必要がある。「十分」についての判断基準を見直し、適切なデータを収集・計測するようにしたほうがよい。あなたを悩ませているのは、さまざまな満足の基準の中のどの要素だろうか。
お金との関係
富を満足の象徴と位置づけている人は多い。ある研究によると、米国人の79%は、さらにお金があれば、さらに幸せになれると思っているという。このような考え方が間違っているわけではない。ある程度までは、満足感はお金で買うことができる。しかし、長年にわたる社会科学の研究の蓄積により明らかになっているように、ほとんどの場合、お金だけでは満足感を得ることができない。
ここで問われるのは、「お金を増やすことに、私はどのような意味を見出しているのか」ということである。程度の差こそあれ、私たちとお金の関係は複雑だ。お金が私たちに心理的な幸福感をもたらすという関係に留まらず、お金が私たちの人間としての価値を決めるという関係が生じると、手段が目的に変わってしまう。
以下は、あなたとお金の関係を見直すために役立つ問いの例だ。
・私の心理的な幸福感に対して、お金はどのような役割を果たしているか。
・私がお金を十分に持っていないという不安を感じる時、その引き金を引く要因は何か。
・私は自分の富(給料、家の大きさ、所有物など)をほかの人と比較し、ほかの人たちのほうが富を多く持っていると感じた時、不満を感じるか。
・お金はどのような形で、私に罪悪感や恥の意識、自分の能力への自信喪失、自惚れの気持ちを抱かせるか。
・私は、どの程度のお金を持っていれば「十分」と考えるのか。