ところが、ファンがチームをコントロールするというコンセプトは、好評ではあったものの、競技での勝利には結びつかないことが最初のシーズンではっきりした。チームは、5勝11敗で2017年シーズンを終えた。ファンチャイズはソルトレイク・スクリーミングイーグルズの解散を決め、代わりに、ファンが采配を振るリーグを独自につくることにした。スタートの日は当初2018年シーズンに間に合わせる計画だったが、何度か延期されたのち、2021年2月にようやくFCFリーグが発足した。
最初のアプローチの欠陥は、すぐに明らかになった。自分たちに決定権がないと感じたコミュニティがどのように反応するかを、FCFは早い段階で経験させられたのである。2017年、NFLから出場停止処分を受けていたディフェンシブエンド、グレッグ・ハーディーをソルトレイク・スクリーミングイーグルズの選手登録枠に迎えるべきかどうかをコミュニティに問う投票が実施された。その結果、50.1%対49.9%の僅差でコミュニティは、ハーディと契約しないことを決めた。賛成票を投じた多くのファンが落胆し、投票は新手の宣伝にすぎず、いかさまだと訴えた。
投票後に起きたこの議論は、創設者たちを憤らせた。創設者たちは、ファンが何をコントロールするのかを正しく理解できるように、ファンとのコミュニケーションにおいて可能な限り透明性を高めることに注力するようになった。
FCFはまた、現在Web3として知られるものへの移行を決めた。コミュニティの投票を、変更不能の分散型台帳が透明性を担保するブロックチェーン上で、すべて行うためである。そしてWeb3の技術を活用して、収入創出とプレーヤー体験の向上を図ることにした。
初期のWeb3での起業には、障害がつきものである。FCFも当初は、多くのスタートアップが直面するような技術的障壁を取り除く作業に追われた。たとえば、リアルタイムのプレー指示を可能にし、ライブ配信の際の遅延を克服するために、新しい競技場におけるWi-Fi信号や接続性を強化する必要があった。また、スポーツ運営の専門家やデジタルプロダクトのデザイナー、エンジニア、コミュニケーションの専門家など、さまざまな職種を加えて組織を成長させる必要もあった。
急速に変化するWeb3の環境には、規制当局による監視と曖昧な見通しという、別の大きな課題もあった。各国の規制当局がWeb3の新しいガイドラインを発表しているが、管轄に関してはまだ曖昧である。そのため、法整備が追いついていない現状や、NFTによる法的所有権の有限性などの課題により、消費者参加モデルの設計と実施は難航を極めた。
消費者主導商品の設計のポイント
FCFの例から、以下のような一般的かつ普遍的な学びが得られる。
参加機会は慎重に設計する
消費者の参加を導入するには、消費者が特定の事柄に関して選択できるかどうか、選択したいかどうかを判断する必要がある。会社と消費者の両方について十分な知識を持っていなければ、その境界線を引くのは難しい。そのため、いまはまだ企業側がビジネス的観点から、消費者に与える選択肢を決める必要がある。たとえば、事前に十分な情報を提供できて、消費者の意見が重要な事柄に限って、消費者に投票させるのである。消費者側も、自分の判断とその結果に思い入れを持っていることが必要だ。そのため、消費者が決定する範囲は慎重に選び、消費者ニーズに沿って継続的に見直すことが重要である。
消費者エンゲージメントに対するインセンティブは最初から導入する
何もしなくても消費者は定期的に参加してくれる、と考えるのは間違いである。消費者は、気軽に楽しく参加でき、労力に見合うものでなければ時間を使おうとはしない。だから投票の仕組みには、効率性と娯楽性が必要である。ビデオゲームのように、努力に応じてボーナスポイントが獲得できたり、プレイヤーランキングに名前が載るような仕組みが必要だろう。FCFは、ファンIQを導入することによって参加を促し、思慮深い判断を重ねることで、ほかのファンよりも影響力を高められるようにしている。
消費者参加を持続させるためには信頼性が必要
決定事項の実行や投票の仕組みへの信頼が失われると、消費者のコミットメントは、あっと言う間に低下する。そのため、企業の経営者に対する信頼と、消費者に与える決定権の信憑性が重要である。経営陣は、みずからの権限を失うことを心配するより、消費者と責任を共有することによって得られる価値に気づくべきである。
消費者の参加は、特にトレードオフの状況では不可欠である。たとえば、金銭面は魅力的であっても、ブランド適合性の低いスポンサーシップ契約を結ぶべきかどうかは、消費者に決めさせるべきである。その投票によって、不買運動やSNS騒ぎなどのマイナスの結果を回避できる。消費者は、経営者が自分たちの意見を重視し、尊重してくれると確信すれば、自分たちの投票権をいっそう責任を持って行使するようになる。
経営陣は新たな責任にコミットする
真の「共同意思決定」とは、企業の経営陣から消費者へ意思決定権の一部を移すことである。持続する共同意思決定の成功モデルを確立するには、経営陣が自分の投じた票にかかわらず、消費者の決定を受け入れることが重要である。同時に、事業を運営し、繁栄させる責任は、依然として経営側にある。この微妙なバランスを取るには、発想の転換が必要だ。これまでは、経営判断の正当性を、特に株主やステークホルダーに対して、振り返って証明する義務があったが、今後求められるのは、消費者に意思決定の選択肢を提示し、それぞれのメリットとデメリットを説明することである。経営者は、その行動を通じて自身の信用を高め、会社の方向性に対する消費者の同意を得るのである。
消費者参加は新商品で行う
実際に消費者に発言権を与えようと考えた時、既存の商品で行うべきか、新しい商品で行うべきかという疑問がすぐに湧いてくるだろう。最初は、既存商品の展開に関して意見を言うほうが、消費者にとって簡単であることは確かだ。その商品を使ってきた経験があり、見る目もあるだろうからだ。しかし、FCFリーグから得た教訓に基づくと、最初から消費者参加を前提にした新商品を開発したほうがよい。
FCFは、リーグを新設したことによって、新しいゲームルールを導入でき、NFLのような直接比較できる商品と競合せずに済んだ。同時に、消費者にとっては新商品とその参加ルールを知ろうとするきっかけになった。
消費者参加を容易にする
Web3は本格化し、近年盛んになっているが、まともに利用できる消費者はごく一部である。企業は、DAOや分散型アプリについて消費者に基礎的な教育を行い、アクセスを容易にする必要がある。Web3空間に入ることは、ほとんどの消費者にとってまだまだハードルが高すぎる。主流になるためには、ユーザーのオンボーディングジャーニーを、さらにシームレスな体験にしなければならない。
可能な限り既存のコミュニティを活かす
Web3技術を導入することで、既存のオンラインコミュニティを活用する道が開ける。FCFの例では、リーグの一部のチームの運営責任を、人気NFTアートのボアード・エイプ・ヨットクラブ(Bored Ape Yacht Club)やキングピンズ(Kingpins)などの既存のNFTコミュニティに委譲している。早い段階で既存のWeb3コミュニティを調査し、取り込むことによって、フットボールファンでなくても、消費者参加に積極的なWeb3マニアの参加を促せる。スポーツファン以外のファンへの敷居を下げ、別のトピックへのアクセスを可能にするアプローチである。






