
顧客の心理的ニーズを見落としていないか
長年の研究から、人間は性別や年齢、文化に関係なく、3つの心理的ニーズにより活気づけられると理解されてきた。その3つというのが、深く身についた選択欲求(自律性)、他者とのつながり(関係性)、そしてスキルを高める経験(習熟性)だ。
しかし、心理的ニーズはその普遍性こそ十分に証明されている一方で、消費者ロイヤルティを高めたり、解約率を低下させたりする役割は、ほとんど見落とされてきた。
筆者が立ち上げた人材・組織開発会社イグナイト80のチームは先日、顧客コミュニケーションプラットフォームのフロント(Front)と協力して、米国、英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアのB2B企業で働く2128人を調査した。
その結果、B2Bの顧客は、たとえ時間や金額がかさんでも、自分の心理的ニーズを高める交流を好むことがわかった。
筆者らはまず、職場でベンダーを選ぶ権限と予算権限を持つ回答者を特定した。そのうえで、この回答者グループに「好ましい」と思う経験を聞いた。以下では、そこから明らかになったことを紹介しよう。
顧客は問題解決よりも選択を求める
筆者らはまず、「あなたはサービスプロバイダーに、次のどちらを望みますか」と質問した。
a. ある問題を一つの方策で解決してくれること。
b. 複数の解決策を提示し、自分で選ぶよう促してくれること。
前者(一つの方策で問題を解決してくれる)のほうが、時間はかからないし確実に問題を解決できるが、回答者の58%は選択肢を与えられることを望んだ。つまり、選択する経験は、たとえ追加的な効用をもたらさず、より時間がかかるという犠牲を強いても、望ましいと見なされた。
顧客はスピードよりも人とのつながりを求める
顧客は、選択の機会を得られるなら、少しばかり時間を犠牲にしてもよいと思っているだけでなく、人とのつながりを得られるなら、より時間がかかってもよいと考えている。筆者らは、以下のどちらを希望するか尋ねた。
a. チャットボットと「会話」をして、計5分以内に問題を解決してもらう。
b. 人間と話をして、計10分以内に問題を解決してもらう。
人間との会話は、チャットボットの2倍の時間を要し、どちらを選んでも問題が解決されることは確約されているため、追加的な効用はない。それでも回答者の74%は2倍の時間がかかっても人間と話をすることを希望した。
この研究で、人とのつながりに対する欲求はさまざまな形で表れた。たとえば、仕事上で付き合いのある複数のサービスプロバイダーについて、さまざま特性(そのベンダーを個人的に知っているかなど)別に点数をつけてもらったところ、サービスの質が「低い」と評価されたベンダーのことを、個人的に知っていると回答した人は33%だった。これに対して、サービスが「良い」と評価されたベンダーのことを、個人的に知っているとした回答者は2倍以上(70%)だった。つまり、身近な存在であることと優れたサービスという印象は、密接に関連しているのだ。
顧客は応急処置よりも成長を求める
次に、以下のどちらのサービスプロバイダーを好むか尋ねた。
a. 問題を解決してくれる業者。
b. サービスプロバイダーに頼まなくても、自分で解決する方法を教えてくれる業者。
顧客の61%が、自分で問題を解決する方法を教えてくれるプロバイダーを好んだ。こうした学習欲求は、自分のスキルアップに最も投資している若い回答者で特に顕著だった。Z世代(主に1997~2012年生まれ)では、4分の3以上(76%)が自分で問題を解決する方法を教えてくれるサービスプロバイダーを望ましいと答えた。一方、ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)では、問題解決の方法を教えてほしいと答えたのは過半を超える51%だった。