許すためのプロセス

 許しに関する自身の誤解を解消できたら、次は許しを求めてくることのなさそうな相手を許すためのステップを紹介しよう。

自分の「許しの原則」を明確化する

 基本的なことに聞こえるかもしれないが、大半の人は、自分にとっての「許しの原則」を明確化していない。許しに関する自分の信念を書き出してみよう。許しを得るために必要な条件はあるか。あるなら、それはどのような条件か。たとえば、3回でアウトなど、許す回数に上限はあるか。他の人よりも許すに値するタイプの人はいるか。許せないと思うのは、どのようなことか。

 あなたが誰かに許された経験を振り返ってみよう。自分では許されるに値しないと思っていたのに、寛大な対応を受けたのはどのような場面か。そのうえで、自分にとっての許しの原則を振り返りながら、「誰かが私を許すという判断をする際に、私が望むのはこの方法か」と自問しよう。

感情と選択を切り離す

 怒りを感じている相手に対する感情をすべて書き出そう。たとえば、憤慨している、報復したい、恐怖を覚えるなどといった感情だ。重要なのは、自分の感情の振り幅を知り、そうした感情を正当なものと見なすこと。特に、相手の行動によってコアバリューが踏みにじられている場合には、なおさらその点が重要だ。

 次に、そうした感情があなたの行動をどのように形づくってきたかを考えよう。その人について同僚に愚痴を言ったか。相手に冷たい態度を取ったか。さりげなく仕返しをしようとしたか。そして、それらの行動が自身の価値観と一致しているかどうかを自問してみよう。友だちや我が子から見て、許せる行動だろうか。自身の感情を正当だと認めることは重要だが、同時にそうした感情に基づく選択が逆効果となる可能性もあると率直に認めることも大切である。

全体の流れを振り返る

 一歩下がって、状況の全貌を考慮してきたか自問しよう。あなた自身が問題の一因となっていた可能性をはじめ、これまで無視してきた要因はないだろうか。相手に残酷なレッテルを貼って中傷していないか。相手の行動が過去の傷の引き金になっていないか。

 大切なのは、現状や相手について、新たなマインドセットを持つことだ。レッテル貼りをやめ、自分が事態を長引かせてしまった可能性に正直に向き合おう。マークの場合、エイデンに対する自身の厳しい評価と行動が自身の価値観と一致しておらず、それが事態を悪化させたのかもしれないと気がついた。

相手を許し、みずからの姿勢を正す

 相手に対するネガティブな感情を意識的に手放してみよう。日記を書く、あるいは相手に渡さない手紙を書くことも効果的かもしれない。同様に重要なのは、自分がこの問題において何らかの役割を果たしてしまったこと、そして相手に能力以上の要求をしてしまったことについて、自分を許してあげることだ。

 これまで目を向けてこなかった相手のよい面をいくつか書き出してみよう。相手に対して、これまでよりも丁重で温かい態度を取り、親切に接するという選択をすることで、みずからの姿勢を意識的に改めてみるのだ。そして最後に、そうした姿勢のほうが自身の価値観と合致していることを認めよう。

 マークはアイデンに個人的に歩み寄って、自分が短気で攻撃的だったことを謝罪した。これには、筆者も彼の同僚も驚いた。マークによれば、アイデンはとても驚き、寛大な様子で応じてくれたという。「でも、誰よりも驚いたのは私自身でした。自分がとてもよい気分になったことに」と、マークは語った。

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 マーク・ガルストン博士が辛辣に定義しているように、「許しとは、けっして受けるつもりのない謝罪を受け入れること」である。これは、人間にとって最も困難な行為の一つかもしれない。「強くあれ」「自分のために立ち上がれ」「嫌な奴に負けるな」といった従来の価値観の多くにも反している。

 しかし、許しとは必ずしもそうした信念に相反するものではない。人は自分のために立ち上がりながら、他者を許すことができるのである。


"Forgiving a Difficult Colleague," HBR.org, March 21, 2023.