
5人に1人の割合で存在する
HSPは職場の財産
アイリーンは、上司たちにとって理想の部下だった。よく働き、熱心で、リードプロジェクトマネジャーの仕事もみごとにこなしていた。真面目な性格ゆえ、仕事の期限はしっかり守り、その内容も細部まで行き届いていた。ともすれば機械的になりがちな組織で、微妙な違いに気がつき、それをコントロールできる彼女の存在は貴重だった。「アイリーンはチームの良心だね」と、多くの人が冗談混じりに言ったものだった。誰もが思いやりや気遣い、精神的な支えを求めている時、彼女を頼りにしていた。
だが、物事を深く考えたり、感じたりするアイリーンの性質がマイナスに働くこともあった。直前に変更があるとパニックになり、生産性が低下した。対立を避けようとするあまり、同僚に必要なフィードバックをしないこともあり、それがチームの成績を抑え込んでいた。
アイリーンは、5人に1人の割合で存在するとされる、非常に敏感な人「ハイリー・センシティブ・パーソン」(HSP)だ。感覚処理感受性(SPS)が高いともいわれ、30年以上前から研究の対象とされてきた。脳の過敏な反応が関係しており、周囲の環境の微妙な変化に弱く、情報を深読みしてしまう。
HSPは、セロトニンやドーパミン、ノルエピネフリンといった脳内の神経伝達物質を処理する時の遺伝的差異と関係していることが、複数の研究からわかっている。これは、危害から自分を守る方法として発達した気質と考えられている。立ち止まったり、観察したりすると、他の人たちが見落とした脅威やチャンスが見えてくるのだ。
自動化やデジタル化、そしてぞんざいな人間関係が支配的になりつつある職場で、HSPの必要性はかつてないほど高まっている。ある調査では、最も繊細な人は、職場で最も大きなストレスを抱えている一方で、上司からの評価が最も高かった。つまり、正しく管理されれば、HSPは職場で最高の資産になりうるのだ。
だが、大多数の経営者は、HSP気質に対する認識が欠けているだけでなく、繊細なリーダーを適切に監督し、育成し、維持するツールを持っていない。HSPを管理するためには学習が必要だが、本稿では、HSPがチームや会社にもたらすものを適切に活用する方法を紹介したい。
繊細さは弱点ではなく強みと考える
ニューロダイバーシティ(HSPなど脳処理の多様性)は、よりよい結果をもたらす。それにもかかわらず、HSPの従業員は弱くてもろく、感情的すぎて、手がかかると見なされることが非常に多い。このような時代遅れの考え方は、HSPが職場にもたらす創造性、問題解決力、共感力などのユニークな強みを無視している。
HSPを効果的に指導・管理するためには、マネジャーが視点を変えて、繊細さは個性の一つであり、欠陥ではないことを認識する必要がある。繊細さを弱点と見なすのではなく、従業員がもたらす強みと考えて、以下のように彼らを活かす方法を検討すべきだ。
・HSPは、パターンを見抜いたり、行間を読み取ったり、微妙なサインに気がついたりすることに長けているため、他の人が見過ごしているチャンスやリスクを発見するのに適している。
・HSPは周囲の人の感情やニーズに敏感であるため、説得したり、影響を与えたり、交渉をしたりするのがうまく、チームワークや仲間意識を構築することに長けている。
・HSPは多様な見解に耳を傾け、共通点を見出すことができるため、紛争解決の際、非常に貴重な存在になりうる。
明快性を重視する
HSPは、生まれつき危険に目を配る特性がある。この警戒心は、先史時代は役に立った特性であり、現代でもチームやビジネスの安全や安定を脅かすリスクを見つける助けになる。しかし曖昧な環境では、過度のストレスや考えすぎに陥る可能性がある。
現代のリーダーは、前例のないほどの不確実性と流動性の中で、物事を動かす方法を知っていなければならない。HSPは、周囲の環境に一定の枠組みと明快性がある時、仕事に集中し、実力を最大限に発揮することができる。このバランスを維持するために、HSPは自分の役割や目標、そして以下のように、自分に期待されることを明確に示される必要がある。
・「私のマニュアル」を作成する。リーダーが、自分と仕事をする部下に対して示す手引書で、リーダーの好みや期待するコミュニケーション方法や、仕事のやり方を明らかにしておく。
・RACIチャートを作成する。RACIとは、個々のプロジェクトや決定事項に関するチームの責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、相談先(Consulted)、通知先(Informed)を示したチャートだ。
・1on1ミーティングを設定して、専門的な能力の開発について話し合う。