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生成AIのリスクを理解し自社を守る
生成AIは魔法のように思える。
ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)やミッドジャーニー(Midjourney)、ダリ・ツー(DALL E 2)といった画像生成ツールは、古びた写真、水彩画、鉛筆画、点描画などさまざまなスタイルで優れたビジュアルを生み出すことができる。その出来栄えは素晴らしく、創作の質とスピードの両方において一般的な人間の能力を上回る。
ニューヨーク近代美術館は、同館の所蔵品を学習したAI(人工知能)によるインスタレーション作品を展示した。オランダのデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館は、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」の原画を外部に貸し出している間、AIによる派生作品を展示した。
テキスト生成ツールの能力は、さらに衝撃的かもしれない。小論文や詩や要約を書き、文体と形式を巧みに模倣する。ただし、創作と事実を都合よく混ぜ合わせることもできる。
これらの新たなAIツールは、何もないところから新しいものを生み出しているように見えるかもしれないが、実際にはそうではない。
生成AIのプラットフォームは、データレイクと短い質問群、つまり画像とテキストの膨大なアーカイブを処理するソフトウェアによってつくられた数十億のパラメータで訓練されている。AIプラットフォームはプロンプトに応答する際に、パラメータのパターンと関係性を復元し、それらをもとにルールをつくり、判断と予測を行う。
このプロセスには、知的財産の侵害を含む法的リスクが伴う。いまだ解決途上にある法的問題が生じるケースも多い。
たとえば、AIによる創作物には、著作権、特許権、商標権の侵害は適用されるのだろうか。あなたや、あなたの顧客に向けて生成AIプラットフォームがつくるコンテンツは、所有者が明確なのだろうか。
企業は生成AIのメリットを活かす前に、リスクを理解し、自社を守る方法を知っておく必要がある。
法的環境の中での生成AIの位置付け
生成AIは市場に出たばかりで、その使用に対しては既存の法律が大きな影響を及ぼす。目下のところ裁判所が、制定されている法律をどう適用すべきかについて整理中だ。
争点としては、権利の侵害と使用権の問題、AI生成作品の所有権の不透明性、ライセンスを受けていないコンテンツが訓練データに含まれることへの疑問などがある。また、著作権や商標権で保護されたほかの制作者の作品の名称を、ユーザーが当人の許可なくプロンプト内で直接引用することは許されるべきか、という問題もある。
これらをめぐる申し立てはすでに訴訟に持ち込まれている。2023年1月の「アンダーセン対スタビリティAIほか」は、3人のアーティストによる複数の生成AIプラットフォームに対する共同訴訟だ。
彼らのオリジナル作品がライセンス契約なしにAIの作風の訓練に使用された。これによりユーザーは、著作権で保護された彼らの既存作品と比較して、作風や目的があまり違わない可能性のある作品を生成できる。結果的にそれらの作品は、無許可の二次的著作物になる、というのが申し立ての根拠である。
AIによる作品が無許可の二次的著作物であると裁判所が認めた場合、侵害に対する大きな罰則が課される可能性がある。
2023年に起きた同様の訴訟では、企業がAIツールの訓練に数千点から数百万点もの無許可の作品を含むデータレイクを使用したと訴えられている。画像のライセンス供与サービスを提供するゲッティイメージズは、ステーブル・ディフュージョンの開発者らが同社の写真を不適切に使用し、ゲッティの透かしが入った写真コレクションの著作権と商標権を侵害したと主張し、提訴した。
どちらの訴訟でも司法制度に求められているのは、知的財産法の下で何が「二次的著作物」になるのか、境界線を明確にすることだ。そして複数の異なる連邦巡回控訴裁判所が、管轄に応じて異なる解釈で対応するかもしれない。
訴訟の結果は、フェアユース(公正使用)の原則の解釈に左右されると思われる。この原則は、「批評(風刺を含む)、評論、ニュース報道、教育(教室で使用する多数の複製を含む)、学問、研究などの目的」、および著作物の意図と異なる方法による変容的な使用であれば、著作権のある作品を所有者に無許可で使用してよい、とするものだ。
テクノロジーと著作権法が衝突するのは、今回が初めてではない。グーグルは裁判で、検索エンジンを構築するために書籍から文章を抽出したことは変容的な使用に照らして許容されると主張し、勝訴した。この判決は当面の間、先例とされている。
これらとは別に、生成AIの成果物の扱われ方を左右しうる、テクノロジーとは関係ない訴訟がある。ミュージシャンの故プリンスの画像のライセンスを取得していた写真家のリン・ゴールドスミスが、アンディ・ウォーホル財団を相手取り控訴し、米連邦最高裁判所で争われている裁判だ。
あるアート作品が、その原典と十分に異なり、明らかに「変容的」であるのはどのような場合なのか。そして裁判所は、その変容を審査する際に二次的著作物の意味を考慮できるのか。これらの問題に対する米国の著作権法の解釈が、この裁判でより明確になるかもしれない。もし最高裁がウォーホルの作品をフェアユースではないと判断した場合、AI生成作品は問題となる可能性がある。
こうした不透明性は、生成AIを使用する企業に多くの課題を突きつける。ベンダーや顧客による生成AIの使用に言及していない契約には、直接的であれ意図せぬ形であれ、権利侵害にまつわるリスクが伴う。
訓練データにライセンスを受けていない作品が含まれる可能性や、フェアユースに該当しない無許可の二次的著作物がAIから生成される可能性をビジネスユーザーが認識している場合、意図的な侵害行為の責任を問われるかもしれない。これには、意図的な使用それぞれにつき最大15万ドルの損害賠償も含まれる。
また、生成AIツールにデータを入力する過程で、部外秘の企業情報やビジネス情報を誤って共有してしまうリスクもある。