仕事の意味をメンバーと一緒につくり出す。リーダーのビジョンを押しつけてはならない。人は往々にして、自分の担当分野や担当顧客のことしか見えなくなる。しかし、自分がどのような形で顧客やその他のステークホルダーの役に立てているのかという大局が見えてくると、従業員のモチベーションとパフォーマンスに長期にわたって計り知れない好影響が生まれる。
チームのエネルギーを高めたいと考えるリーダーは、メンバーと一緒に、業務をより大きな目的と結びつけるよう努めるべきである。重要なのは、これをメンバーと一緒に行うことだ。間違っても、リーダーが重んじる目的をチームに無理やり押しつけてはならない。ていねいな姿勢で押しつけることも避けるべきだ。リーダーのそのような自己中心的で利己的な行動は、筆者らのアンケート調査の回答者たちがとりわけエネルギーを奪われると述べていた要素の一つだ。それとは対照的に、メンバーと一緒に目的を見出そうとする姿勢は、部下への敬意を伴うものと見なすことができ、部下へのエンパワーメントにつながる。
メンバーの尊厳と自尊心を高めるよう努める。メンバーを道具のように考えてはならない。リーダーは、メンバーを多面的な性格を持った個人として扱い、会社の成功のために欠かせない存在と位置づけるべきだ。リーダーがメンバー一人ひとりの特別な資質を評価すれば、メンバーは、自分のことをより価値ある存在と考えるようになり、やる気が強まる。アンケート調査の回答者の一人は、こう述べている。「(このようなことができるリーダーは)調子はどうかと笑顔で尋ねてくれて、こちらの言葉に耳を傾け、こちらの目を見て話そうとします」
これと対極的なのは、部下を目的達成の手段と見なす姿勢だ。この問題は、リモートワークの環境でとりわけ深刻化するおそれがある。メールによるコミュニケーションが多用されて、効率性や生産量が過度に強調される傾向があるためだ。
最終目標ばかりを意識せず、途中で活動に弾みをつけることにも関心を払う。テレサ・アマビールの研究が明らかにしたように、仕事でたびたび前進を経験すると、その人はポジティブな感情とモチベーションを抱き、創造的な成果を生み出しやすくなる。逆に、挫折はその規模を問わず、計り知れないほど大きな悪影響をもたらす場合がある。大きな前進を遂げるのに必要なエネルギーがない場合でも、小さな成果を上げることができれば、活動に弾みをつけ、挫折によるエネルギーの喪失を埋め合わせるうえで極めて大きな効果がある可能性がある。
見落としてはならないのは、こうしたことが偶然に結果として実現するわけではないということだ。途中で小さな成果を達成したいのであれば、戦略的に目標を細分化して、短期的な到達目標を定めることが不可欠だ。
エネルギーを増幅させる
エネルギーを高める3つの方法のうちで最も強力なのは、もしかするとチームのエネルギーを増幅させるアプローチかもしれない。具体的には、メンバーの多様な強みや才能、経験を見出して、それをうまく活用するのである。
筆者がコンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーでさまざまなチームを率いていた時の経験から次第に見えてきたのは、メンバーの職業的・文化的・教育的多様性を存分に活かしているチームがある一方で、共通の体験に依存していて、イノベーションや思慮深いソリューションを生み出しにくくなっているチームもあるということだ。
ハイブリッドワークを実践するチームに付き物のリスクは、一人ひとりのメンバーに特有の強みが明らかになっておらず、十分に活用されないというものだ。リモートワークでは、人々が孤立して働くことになりやすく、その影響により、同僚たちの専門分野や視点を知る機会が乏しくなるだけでなく、自分自身の強みを理解する機会も乏しくなる。
筆者の共同研究によると、チームのエネルギーを増幅させるリーダーは、以下のような行動を取っている。
恐怖心を克服して、自分がどのような人間かをメンバーに語る。リーダーは、みずからの専門分野や性格、これまでの人生におけるもろもろの経験について語ることを通じて、チームのメンバーが自分自身のさまざまな側面について考え、同僚に語るよう後押しすることができる。それは一般的に、人々にとって楽しく、胸躍る経験といえる。
アンケート調査の回答者の一人は、エネルギーを高めるうえで最も重要な要素として、自分の上司であるマネジャーに以下の助言を送った。「あなたの人生のこと、そしてあなたという人間のことを話してください」。自分自身について語ることには、リスクがあるように思えるかもしれない。しかし、それは、ハイブリッドワークのチームで欠如しがちな信頼関係を育むうえで、コストがあまりかからず、しかも効果の実証されている方法なのだ。
自分だけでなく、メンバーの異なる側面を目にとめる。リーダーは、自分のことばかりを語りすぎてはならない。部下の複雑な能力や視点にも関心を示すべきだ。「あなた自身について語ってください」と水を向けることほど、その相手のエネルギーを引き出すうえで効果的な方法はないだろう。あるアンケート回答者の言葉を借りれば、リーダーが部下への関心を示せば、「士気の向上」「集中力の改善」「意欲の増進」など、数え切れないほど多くの恩恵が期待できる。
コントロールすることばかりを重んじず、学習と成長に光を当てる。エネルギーを増幅させるリーダーは、実験することやコントロールを失うことを恐れない。むしろ、メンバーが各自の強みを活かして、チームの戦略上の目標に対して独自の価値ある貢献をするよう後押しする。また、たとえ目標を達成できなかったメンバーがいても、それを失敗とは見なさない。スキルとビジネス感覚を育むチャンスと位置づける。
加えて、このようなリーダーは、マイクロマネジメントを行わない。メンバーが最善を尽くして、自分を改善し、成果を上げると信じているからだ。とはいっても、メンバーを暗闇の中に放り出すようなことはしない。課題を乗り切るための導きを必要としているメンバーには、そうした導きを与える。
そのようなリーダーの一人が、グーグルでクリエイティブワーク担当ディレクターを務めているアビゲイル・ポズナーだ。ポズナー率いるチームがクライアント企業の広告キャンペーンのた
ポズナーは、違いを評価できる人物として知られていた。そのような姿勢を持っていたために、映画制作の経験を持つメンバーがチームに関わり、チームの提案内容に基づくユーチューブ用動画広告の試作品を作成した。それに続いて、元ジャーナリストのメンバーが営業素材を作成した。こうした多様な人材の能力を組み合わせることにより、ポズナーのチームは、それまでよりもクライアント企業の心の琴線に触れる形で、提案内容を示せるようになった。すると、顧客価値が高まり、売上げが増加し、チームのエネルギーも高まった。
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より賢明にコラボレーションを実践するためには、エネルギーの注入が欠かせない。コラボレーションが行われているチームのリーダーは、メンバーのエネルギーを適切な方向に向け、エネルギーを生み出し、エネルギーを増幅させることを通じて、より強力な成果を上げ、より迅速にイノベーションを成し遂げ、従業員のエンゲージメントをより向上させる道を開いている。
コロナ禍や不確実な経済環境、そして不安定な地政学的情勢がもたらした最近の混乱から見えてきたのは、エネルギーが落ち込んでいたり、完全に欠如していたりすると、ビジネスの成長が脅かされかねないということだ。不確実な状況が続く中で、ポジティブなエネルギーは、もはや「あるに越したことはないもの」と片づけることはできない。「欠くことのできないもの」と位置づけるべきだ。チームが重要課題に集中し、イノベーションを成し遂げ、その結果としてビジネスを成長させるために、欠かせない要素なのである。