「善意のコードスイッチング」から「本人の言葉に委ねる」へ

 あるクライアントチームで、グロリアは、チームリーダーがたびたびチームでの話を自分に「翻訳」していることに気づいた。「リーダーは、私がみんなを理解できず、みんなも私を理解していないかのように振る舞っている」とグロリアは思った。これは、「善意のコードスイッチング」と筆者らが呼ぶ阻害パターンの一例で、あるメンバーがチームに溶け込み、理解されるのを「助ける」ために、本人に代わってコードスイッチング(言語の切り替え)をすることである。

「個性を存分に発揮して働く」いまの時代において、チームメンバーは、リスクを負いながら、より自分らしい発言や表現や行動をしている。コードスイッチングをされると、メンバーは、自分が受け入れられていない、評価されていないと感じ、それによってチームへのエンゲージメントが低下することもある。たとえば、グロリアは意見を言うことを控え、他のメンバーに発言を任せるようになった。その結果、彼女の知見や経験がチームの成長や業績に貢献することが少なくなってしまった。

「善意のコードスイッチング」に対抗する促進パターンは、「本人の言葉に委ねる」ことである。チームメンバーはまず、そのメンバーが言ったことを他のメンバーが理解していないと思い込んでいることを認識し、衝動に駆られても、話された内容を説明し直すことは控える。なぜなら、必要な時に、必要な人が情報を求め、自分の理解が正しいかを確かめればよいからである。「本人の言葉に委ねる」は、相手の言葉や態度に現れるその人らしさに敬意を表し、相手をありのままに受け入れていることを示す行動である。

 グロリアのケースを筆者らがコーチングするならば、「善意のコードスイッチング」がどのように起きているかをチームに洗い出させたうえで、そのパターンを目撃した時にどのように止め、その場で新しい行動を実践するかという「関わり方のルール」を考えさせるだろう。

「無視」から「クローズドループの応答」へ

「無視」とは、その名の通りで、メンバーは、自分の言動に対する反応がないために、人から軽んじられ、蔑まされ、相手にされていないと感じる。その代償は大きい。無視されたメンバーは、心理的ストレスが増し、レジリエンスやウェルビーイングが低下し、チームは人材や知見を失う。

 阻害パターンの中でも大きな痛手を伴うものだが、矯正法は非常にシンプルだ。「クローズドループの返答」、つまり、相手のコミュニケーションを受け取ったという受信確認を必ず行うことである。医療現場で患者ケアのためによく使われるクローズドループ・コミュニケーションは、要求や依頼、提案などの伝達事項が遺漏なく対応されることを確認するために行われる。この促進パターンを導入するチームでは、次のような受け答えを実践するとよいだろう。「メッセージをたしかに受け取りました。いつまでにフォローアップします」。これによって、チームとして互いを認め合い、評価できるようになり、チームワークや結束を強めることができるのである。

「ガスライティング」から「共感的ミラーリング」へ

 ガスライティングとは、他人の現実に疑問を投げかけることである。それをアイデンティティに基づく地位や組織的な権力を持つ人が行うと、特に害が大きい。ガスライティングの阻害パターンは、白人の多い職場で働く有色人種の女性に対し、その女性のネガティブな体験について、同僚が「あなたの相手には、そのようなつもりはなかったと思いますよ」などと言って、疑ったり否定したりする形で現れることが多い。

 この見えにくい阻害要因の解消策として筆者らが勧めるのは「共感的ミラーリング」、つまりガスライティングを受けた人の体験を他のメンバーが別の表現で言い換える(パラフレーズ)ことで認め、理解を示し、本人が受けたダメージを回復させることである。たとえば、「そういうことがあったのですね、理解しました」「あなたの思い違いではありません」「あなたが自信を取り戻すためにできることはありますか」などと声をかけるとよいだろう。

 このパターンの場合、チームリーダーが動いて、ガスライティングをしている側を正すことが重要だ。そのメンバーの行動が相手やチームにどのような影響を与えているか、当人に率直な言葉でストレートに伝えることである。そして、今後は共感的に接するよう、コーチング的なアプローチでオープンエンド形式の質問をしながら、改心を促すとよいだろう。

「トークニズム」から「動機付けと機会の対応」へ

 トークニズムとは、少数派グループの一員であることを理由に、そのメンバーに仕事を割り振ったり、関わったり、意見を求めたりすることをいう。たとえば、黒人のメンバーにマイノリティ層の顧客向けプロジェクトのリーダーを頼んだり、ヒスパニックのメンバーに「ラティンクス(Latinx:ラティーノ、ラティーナに代わる中性名詞)の物語」を組織全体に紹介する大使を依頼したりすることだ。

 トークニズムは、チームメンバーが自分の誠実な貢献に価値を見出せなくなり、また、さらに興味があったり、実力を発揮できたりする仕事に取り組む機会を削ぐことにつながる。リーダーは、これに対抗する促進パターンである「動機付けと機会の対応」を使って、各人にとって最も価値のあること(内的動機付け)に基づいて、メンバーを仕事や共同作業に参加させるとよい。メンバーのアイデンティティに関連した仕事に従事させるのではなく、メンバーのモチベーションに沿う機会を与えることで、エンゲージメント、創造性、生産性が高まり、離職率が下がることさえあるのだ。

「ボックスアウト」から「開いた姿勢」へ

 ボックスアウトとは、バスケットボールで外れたシュートを取りに行く相手チームを体でブロックすることをいう。仕事では、ボックスアウトの阻害パターンは、人を排除するような体の動きに現れる。たとえば、目を合わせない、背を向ける、よける、手足を組む、顔をしかめる、眉を寄せる、天を仰ぐといった非言語的なジェスチャーである。これらは言葉と同じかそれ以上のインパクトがある。言語か非言語かを問わず、すべてのコミュニケーションは、脳の開閉に関連する神経伝達物質の放出を誘発し、対人信頼度、ひいては個人のパフォーマンスやチームの結束力の増減につながる。

「開いた姿勢」の促進パターンによって、全身で相手に集中すること以上に、「あなたもチームの一員です」と伝える方法はない。実際的な意味では、会議中にデバイスをいじらない、ビデオ通話ではカメラをオンにしてカメラの方を向くなど、互いに開いた姿勢を見せることにチームで合意するとよいだろう。

意識的に立ち止まり、新しいパターンを実践する

 最も現状を大きく変える阻害パターンと、それに対応し、取り組むべき促進パターンをチームで判断すること。そして、全員で意識的に一時停止と新しい行動を繰り返し、パターン化するまで続けることが重要だ。

 習慣的な行動を変えるには時間がかかるため、必要に応じて何度でも立ち止まることによって、チーム全体で阻害行動に気づき、促進行動を意識的に実践できる。チームがこのような関わり方をするようになると、インクルージョンの責任を、リーダーや人事部門だけでなく、チーム全体に根づかせることができる。そうしてチームは、新しい行動規範に移行する力を身に付け、模範となって他のチームを導くのである。


"Make Inclusive Behaviors Habitual on Your Team," HBR.org, May 09, 2023.