チームメンバーの多様性だけで満足していないか
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サマリー:インクルージョンの取り組みの実現と責任はチームにある。しかし筆者らが考えるインクルーシブなチームとは、多様性のあるチームをつくることではない。チームがインクルージョンの行動習慣を持てるかどうかが重要に... もっと見るなる。そこで本稿では、インクルージョンの行動習慣を阻害するパターンを明らかにし、その解決手段を取り入れる方法を紹介する。 閉じる

インクルーシブに基づく行動が習慣化されているか

 筆者らはコーチングの仕事をしているが、(筆者の一人である)パーソンズが企業研修のセクションのファシリテーターであることが明らかな時でも、参加者の少なくとも一人は、必ず(もう一人の著者の)アデルソンに質問やコメントをする。筆者らは、同じ立場の同僚であり、一緒に担当するイベントでは、その時々で進行役とサポート役を決め、役割分担を参加者にも明確にしている。そのため、そのようなことが起こるたびに、パーソンズは、自分が黒人で、アデルソンが白人だから、相手がわざと自分の立場を軽んじているのだろうかと疑ってしまうのである。

 筆者らが体験したこのマイクロアグレッションが「特殊な事例」ではなく「パターン化」しているのを受けて、筆者らは、DEI教育の場を個人からチームへとシフトさせてきた。というのも、チームにおける変化こそ、持続可能な変化を起こすカギになりうるからである。「インクルージョンの取り組みの実現と責任は、チームにある」というのが筆者らの立場だ。それは、チームこそが、社員が実際に仕事をし、リアルタイムで関わり合う場だからである。

 筆者らのいう「インクルーシブ・チーミング」とは、多様性のあるチームをつくることではない。多様性のあるチームでも、インクルージョンが習慣化されていなければ、同質的なチームよりも業績が劣る場合があるというエビデンスもある。したがって、インクルーシブ・チーミングは、チームに多様なメンバーがいるかどうかではなく、チームがその多様性を積極的かつ生産的に管理しているかどうか、つまりインクルージョンの行動習慣を持つチームかどうか、によって決まるのである。

 筆者らは、5万5000時間をかけて行ったチームおよびリーダーを対象とした調査に基づき、インクルーシブ・チーミングの妨げとなる行動パターンを特定した。これらは、制度的な人種差別から発展した構造を示すもので、自覚の有無にかかわらず、チーム内にはびこるものである。筆者らは、これらを「阻害パターン」(Detractor Patterns)と呼んでいる。

 阻害パターンは、最終的にチームの結束力、業績、成果に影響を及ぼし、ハードコスト(納期や業績目標の未達など)とソフトコスト(優秀な人材を失うなど)のどちらにもつながる。しかし、パターンの特定に熱心に取り組んでも、それだけでは十分ではない。インクルーシブ・チーミングの仕事は、筆者らのいう「促進パターン」(Amplifier Patterns)を使って、そのパターンを矯正することである。

 チームは、インクルージョンを促進する新しい行動パターンを取り入れ、また、すでに促進パターンがあれば再確認し、習慣化することによって、インクルーシブ・チーミングに近づくことができる。その方法は以下の通りである。

問題を特定し、それに合った矯正を行う

 筆者らが一緒に仕事をしているリーダーは、自分たちのチームに「何も問題はない」と言う。しかし、チーム内で無意識のうちに習慣化した排他的な行動パターンは、インクルージョンに関する個々のチームメンバーの体験だけでなく、チーム全体の業績にも影響を及ぼすことがある。筆者らチームコーチの仕事は、見えないものを可視化することによって、チームがインクルージョンを高める行動パターンを意識的に選択できるようにすることである。

 最初の手順として最も効果的なのは、チームがチームの阻害パターンを認識すること、そして、それについて率直に話し合うことである。認識が深まったら、後は、その阻害パターンを矯正する促進パターンを意識的に選択し、実践する。ここでは、筆者ら自身の経験やクライアントの間でよく見られる5つのパターンについて説明する。