トランスフォーメーションを成功させるリーダーの共通点
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サマリー:トランスフォーメーションを成功させる重要な要素が、リーダーによる「感情面のサポート」だ。組織はトランスフォーメーションを一度限りの出来事ではなく中核的ケイパビリティと考えるべきであり、リーダーはそのリ... もっと見るスクを認識し、感情の揺れ動きを管理する戦術を用いる必要がある。本稿は、トランスフォーメーションに成功したリーダーに共通する、6つの領域と具体的な取り組みを紹介する。 閉じる

トランスフォーメーションを成功させたリーダーに共通する「感情面のサポート」

 かつてディスラプションはコダック、ポラロイド、ブラックベリーなど、一部の不運な企業を襲う例外的な出来事だった。だが今日のように、気候変動やデジタル化から地政学、DEI(多様性、公平性、包摂)まで多くの難題が降りかかる複雑かつ不確実な世界においては、組織はトランスフォーメーションを一回限りの出来事ではなく、手法を会得すべき中核的ケイパビリティと見なす必要がある。

 同時に、リーダーはトランスフォーメーションにはリスクが付き物だと認識する必要もある。1995年、ジョン P. コッターは組織のトランスフォーメーションの70%が失敗に終わったことを明らかにした。

 それから30年近くを経たいまも、状況はあまり変わっていない。筆者らは900人以上の経営幹部と、企業のトランスフォーメーションを経験した1100人以上の従業員を対象に独自の調査を行ったが、その結果も同様だった。リーダーの67%が、過去5年間に少なくとも一度はトランスフォーメーションの失敗を経験していると答えたのである。

 今後1年の間に多くの組織がトランスフォーメーションに何十億ドルも投じることを考えれば、70%という失敗率は企業価値の大暴落と同義だ。では、成功の確率を高めるために、リーダーは何をすべきなのか。

 筆者らはトランスフォーメーションを担うリーダー30人にインタビューを行い、23カ国、16セクターにまたがる2000人以上のシニアリーダーおよび従業員を対象に調査を実施した。回答者の半数は成功したトランスフォーメーションに携わっていた一方、残りの半数はトランスフォーメーションの失敗を経験していた。

 では、トランスフォーメーションを成功させたリーダーたちは、どのような戦術を用いて感情の揺れ動きを乗り切ったのか。この疑問に答えるために、筆者らは、トランスフォーメーションの11の領域において50の行動が表れる度合いに基づき、組織がトランスフォーメーションのKPI(重要業績評価指標)を達成できる可能性を予測するモデルを構築した。

 その結果、11のうち6つの領域における行動が一貫して、トランスフォーメーションの成功確率を向上させることが判明した。これらの領域の数値が平均を上回る組織は、トランスフォーメーションのKPIを達成できるか、またはそれを上回る割合が73%に上る。それに対し、数値が平均以下の組織ではKPIを上回る比率が28%に留まった。つまり、組織がこれら6つの領域で「てこ」を効果的に活用できれば、成功確率を最大限に高められると考えられる。

 さらに、トランスフォーメーションの成否を左右する重要なカギは、リーダーが従業員の感情の揺れ動きを受け入れることだという点も明らかになった。成功したトランスフォーメーションに携わった回答者の52%が、その過程で必要な感情面のサポートを、組織が「かなりしっかりと」提供してくれたと答えた(失敗に終わったトランスフォーメーションに携わった回答者は、この数字が27%だった)。

 トランスフォーメーションは、あらゆる関係者にとって、個人レベルでは極めて困難な経験だ。筆者らが調査した成功事例では、リーダーはチームに必要なプロセスとリソース、テクノロジーを提供するだけでなく、感情面でも適切なサポート環境を構築していた。彼らはトランスフォーメーションを推し進めるために説得力のある論拠を提示し、従業員に必要な感情面のサポートを用意していた。その結果、厳しい事態を避けられなくても、従業員はそれを必要な困難だと感じ、ストレスを活力に変えることができた。

 対照的に、失敗したトランスフォーメーションを率いたリーダーたちは、そうした感情面への投資を行っていなかった。そのため、チームが避けがたい困難に直面した時、否定的な感情が高まり、下降スパイラルに陥ってしまった。リーダーが信念を失ってプロジェクトから距離を置こうとすると、それを受けて従業員も同じように振舞うようになった。

トランスフォーメーションのカギとなる6つの「てこ」

 では、トランスフォーメーションを成功させたリーダーは、感情の揺れ動きをうまく管理するために、どのような戦術を用いたのか。筆者らの調査によって浮かび上がった、成功確率を最大化する6つの「てこ」を紹介しよう。

1. 変化に対するリーダー自身の意欲

 リーダーの仕事は外に目を向け、周囲の人々に指針を提供することだと思われがちだ。しかし筆者らの研究によれば、従業員による組織のトランスフォーメーションを支援するには、まずリーダーが自分の内面に目を向け、変化に対する自身の向き合い方を精査する必要がある。GEXベンチャーズのエグゼクティブチェアマンであるパトリック・リュー博士が指摘したように、「あなたが自分自身を変化させる準備が整っていないなら、チームや組織を変えるなんて無理な話」なのである。

 筆者らのインタビューに対し、リーダーたちは自身の感情とより深く向き合う、個人の成長に付き物の不快感に慣れるなど、自分を成長させるために取り組んでいることを語ってくれた。あるリーダーの言葉を借りれば、前向きな軌道修正を実現するにはまず、リーダーは「鏡を見て」、自分自身が問題の一部であると認識する必要がある。まず自身の恐怖心を取り除かなければ、従業員が変化を乗り切れるようサポートすることはできない。

 自動車業界のあるCOOは次のように語った。「トランスフォーメーションを率いる立場の人間として、正直なところ、最初はかなり不安でした。たいていの人はこれから進もうとしている道について知っておきたいと思うものです」

 また、グローバルビジネスサービス業界のシニアバイスプレジデントは、自己発見の過程で、弱さをさらけ出し、正直になる必要があったと話してくれた。「自分が何者なのか、より強く意識するようになったと思う」