「私のせいで、あなたの仕事が必要以上にストレスフルになっていないか」と問いかける
トップパフォーマーはもともとみずから高いモチベーションを有している。そのため、他の人と同じように管理しても、彼らを疲弊させてしまうだけで、退職リスクにつながってしまう。イェール大学のセンター・フォー・エモーショナル・インテリジェンスとファース財団が米国人従業員1000人以上を対象に行った調査では、そのうち20%はエンゲージメントが高く、同時に重度の燃え尽き症候群に陥っていると回答した。
エンゲージメントと疲労が重なるこのグループは、仕事への情熱が強い一方、多大なストレスと不満も抱えている。このタイプの従業員は、仕事を辞めるリスクが最も高い。それも、エンゲージメントの低い従業員以上に、だ。
この結果から、企業が最も有能な従業員を失う原因は、エンゲージメントの欠如ではなく、むしろ強いストレスや燃え尽き症候群であることがうかがえる。
そうした事態を回避するために、マネジャーはトップパフォーマーにシンプルかつ強力な問い──「私のせいで、あなたの仕事が必要以上にストレスフルになっていないか」 ──を投げかけよう。そして、状況を改善するために必要な行動を取るべきだ。
「85%の正しい判断」でよいと伝える
チームとして意思決定を行う場面で、「100%の完璧」を求めてはならない。「85%の正しい判断」で許される場合は、その旨を部下に伝えよう。
完璧主義者には、以下の2つのタイプがあることが研究で明らかになっている。1つ目は「卓越性を求める」完璧主義者で、自分にも他人にも高い基準を要求する。2つ目は「失敗回避型」の完璧主義者。彼らは自分の仕事が十分でないのではないかという不安を常に抱え、完璧でなければ周囲から評価されない、と恐れている。
85%の正しい判断を求めることで、最もパフォーマンスの高い従業員から不要なプレッシャーを取り除くことができる。そうなれば、100%の正しい判断を下そうとして行動を起こせなくなることなしに、チームを前進させ続けられる。
高圧的な言葉遣いに気をつける
マネジャーは、チームとコミュニケーションを取る際の言葉遣いに注意を払うことが重要だ。メールや会議で「大至急」「必要性」「緊急」といった高圧的な表現を使うと、チームメンバーに過度のストレスやプレッシャーを与えかねない。
そうした状況を避けるために不可欠なのは、本当の締め切り、その根拠、トレードオフの可能性について、オープンなコミュニケーションを促すこと。すべての要求を常に受け入れるよう従業員に求めるのではなく、「この業務を引き受けるために、断る必要があるものは何か」と尋ねてみよう。プロジェクトの選択に自主性を持たせることで、優秀な社員が高いパフォーマンスを維持しつつ、燃え尽き症候群に陥るのを予防できる。
会議を10分早く終了させる
最近、あるマネジャーから「どのようなマネジャーにでもなれるのなら、会議を早く終わらせるマネジャーになりなさい」という言葉を聞いた。筆者はこの指摘に、面白さと同時に真実味を感じた。
多くの従業員が、パンデミック当時の「ズームをする、食べる、寝る、それを繰り返す」という生活がいまだに続いていると感じている。たしかに、オンライン会議は以前よりはるかに増えている。そして、オンライン会議は対面での会議や電話で話すだけよりもすぐに、「人間の心身を疲弊させる」ことがわかっている。
マイクロソフトのヒューマン・ファクターズ・ラボの研究によって、会議の合い間に10分間の休憩を取ると、脳の働きに違いが生じることが明らかになった。短い休息がストレスの蓄積を防ぐ一方、次々に会議が続くと集中力と参加する意欲が低下してしまう。
研究チームは14人の被験者に、脳の活動をモニターする脳波計を装着したままビデオ会議に参加してもらった。被験者が参加したのは、2種類の異なる会議セッションだ。まず1日目は、休憩を挟まずに4つの会議に続けて出席し、別の日には同じく4つの会議に、10分間の休憩を挟みながら出席した。以下は、その際の脳波の記録だ。
図表の寒色は、合い間の休憩のおかげでストレスレベルが低下したことを示している。一方、休憩時間を奪われた人は、β波の活動が徐々に増加している。寒色から暖色への色の変化が示すように、時間の経過とともにストレスが蓄積していったことがわかる。この図表は、各会議の開始時のタイミングで、「休憩あり」と「休憩なし」におけるβ波の活動の相対的な差を表している。
マネジャーが会議を10分早く終わらせば、従業員が「赤い脳」に陥るのを回避し、最高の思考ができる「青い脳」に保つことができる。
自身の集中力も85%に設定する
マネジャー自身も自分の心を85%の集中度に設定し、頭が真っ白になるほどのストレスを抱え込まなくても大丈夫だとチームに示すことが重要だ。「深夜や週末に働くな」と言いながら、日曜の午前2時にメールを送りつけるマネジャーもいるが、行動は言葉よりも雄弁だ。
研究によると、従業員は多くのマネジャーが思っているよりもずっと敏感に、上司の意図を読み取ろうとしている。ヒヒは20~30秒に1回の割合で「ボス」であるアルファオスを見ている、という興味深い研究もある。人間もヒヒと大差ない。もしも夜遅い時間や週末にメールを書くのであれば、せめて月曜日の午前9時に送信されるよう送信予約をすべきだ。
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85%ルールは直感に反するように思えるかもしれないが、燃え尽き症候群が深刻ないまの時代には妥当性がある。カンザス大学の心理学者であるスティーブン・イラルディが指摘したように、「人間は、栄養状態が悪く、座りっぱなしで室内で過ごし、睡眠不足で、社会的に孤立した、21世紀の狂乱の生活ペースに合わせてつくられてはいない」のである。
私たちはきっと、もっとうまくやれるはずだ。85%ルールを新たなマインドセットとして採用したマネジャーは、この狂乱を落ち着かせつつ、チームのパフォーマンスを向上させられるだろう。
"To Build a Top Performing Team, Ask for 85% Effort," HBR.org, June, 08, 2023.