
「緊急性の高いニーズ」を持つ客に注目すべき
多くのビジネスリーダーは、自社に最適なターゲット顧客を完全に理解していると信じている。そして、標準的な特性(年齢、教育レベル、勤務年数、役割など)や企業特性(年間の収益、従業員数、業種、地域、創業年数など)といった、詳細に調査されたパラメータを豊富に含む明確なプロファイル(ペルソナ)を作成している。これらは重要だが、もう一つの重要な特性を忘れている。「ニーズの緊急性」だ。
中小規模の個人歯科診療所向けにSaaS型請求書管理ソリューションを提供する企業の場合、ターゲットとする診療所の標準的な特性にまずは注目するだろう。診療所の規模(従業員数または医師数)、運営年数(古い診療所ではシステムが古い可能性が高い)、または年間の保険請求の件数などである。
これらの変数は、見込み客のリストを作成するのには役立つが、営業チームが最初に電話をすべき診療所を特定するものではない。しかし、どの診療所のニーズが最も切迫している状況かを反映するデータ(たとえば、過去1年間に2回以上、請求管理支援を求める広告を出している診療所は、それに苦労していることを示唆している)を追加すれば、営業担当者は緊急性の高いニーズを持つ見込み客に優先的に目を向けられる。
4つのセグメント
このニーズをベースにしたアプローチでは、潜在顧客を4つのセグメントに区分する。
1. 緊急:顧客が緊急性の高いニーズを認識している。「請求書の担当者がまた辞めてしまった」
2. 非緊急:顧客はニーズを認識しているが、現時点での優先順位は高くない。「請求書管理のニーズが変わったので、現在のシステムを刷新する必要があると認識している。来年中に検討を開始する予定だ」
3. 現在は満たされている:顧客は、現時点でのニーズに対応する適切なソリューションをすでに持っていると考えているが、長期的なものではない可能性を認識している。「古い請求書管理システムを使っているが、いまのところは間に合っている」
4. なし:顧客はニーズがないか、ニーズがすぐに生じるとは考えていない。「小さな診療所なので、自己負担で支払う患者の数は限られている。支払いはすべて診療時に行われるため、複雑な新しい請求システムは必要ない」
このように、ターゲットとする顧客のニーズの緊急性に焦点を当てることは、常識のように思うかもしれない。しかし筆者らは、金融サービス、企業向け情報技術、公益事業、産業ソリューション、医療技術など、中堅企業からフォーチュン50の大企業までさまざまな業界のB2B企業と仕事をする中で、この側面がしばしば考慮されていないことを発見した。以下は、企業がこのアプローチを適用するためのプロセスだ。
新規顧客を特定する
既存の顧客ベース以外の見込み客を特定するために、利用できる情報がある。その一つが、前述した特定のニーズが反映された募集広告だ。
しかし、ほかにもたくさんある。たとえば、在庫管理ソリューションを販売する会社なら、製造業界のM&A(企業の合併・買収)のデータから、在庫管理などのシステムの変更や統合を急ぐ企業が見つかるかもしれない。品質管理ソリューションを販売する企業なら、ソーシャルメディア上で品質不良を指摘されている企業が貴重なデータの源となるかもしれない。
必要な情報を集める
顧客ニーズの真の緊急性を特定するには、標準的な人口統計と企業統計のプロファイリング以外の調査が必要となる。まずは、顧客や見込み客と対話するアウトリーチ活動から開始するとよい。これは、顧客ニーズの緊急性に影響を及ぼしている可能性のある、新たなターゲット顧客のパラメータを特定する質問を行うことが目的だ。
・不満:不満を解決する必要性は、どれほど緊急的なものなのか。どの不満が解消されれば、成功が最も加速するか。
・目標:目標は明確で、一貫性があり、合理的で、測定可能か。目標は最近変化したか。
・障害物:目標達成を阻むものは何か(睡眠を妨害するような障害は何か)。その障害物の影響の大きさはどの程度か。
・環境と状況要因:業界再編、組織や経営陣の交代や不安定化、競合や規制の変化などを経験しているか。これらの要因の影響の大きさはどの程度か。
・テクノロジー要因:目標達成能力に影響を与えるような新しいテクノロジーや変化しているテクノロジーはあるか。テクノロジーの耐用年数の問題や非互換性によるリスクに直面していないか。