素晴らしい従業員体験をつくり出す5つの要素
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サマリー:従業員体験の向上は、組織の成長を促し、顧客体験も高めることにつながる。実際に筆者が行った研究により、従業員体験を改善することで、最大50%売上げを伸ばせる可能性があるとわかっている。そこで本稿では、企業... もっと見る幹部が従業員体験の質を高める際に参考になる、5つの重要な要素を紹介する。 閉じる

従業員体験の改善が売上げにつながる

「幸せな従業員は、幸せな顧客をつくる」と昔からよくいわれてきたが、この格言はデータでも裏づけられている。最近の研究により、従業員体験の持つ意味がいかに大きいか、そして組織の成長を後押しするために従業員体験をどのように活用すべきかが明らかになってきたのだ。

 これまで何十年もの長きにわたり、経営戦略の分野では、顧客体験を重視すべきだと説かれてきた。コロンビア大学の研究者らが行った最近の研究によると、「(業績発表のためのテレビ会議で)経営幹部たちが顧客について話す頻度は、従業員に関するものより10倍も高い。その際、顧客という言葉は『機会』の同義語として、従業員という言葉は『リスク』の同義語として用いられている」という。企業が従業員体験の重要性について語っていても、実際に取っている行動は、顧客体験を高めるためのものである場合が多い。

 自社の従業員より顧客を優先させれば、短期的には売上げを伸ばせるかもしれない。しかし、長い目で見れば、従業員の退職率とエンゲージメントの面で悪い結果を招く。その一方、筆者がセールスフォースの同僚たちと一緒に行った研究によると、従業員体験を改善することにより、最大50%売上げを伸ばせる可能性があるとわかった。

 筆者は、企業幹部が従業員体験の質を高めるのを助けるために、良好な従業員体験を生む主要な要素を明らかにしたいと考えた。具体的には、著書The Experience Mindset(未訳)の執筆準備のために、同僚たちとともに、世界のさまざまな業種の企業で働く何千人もの従業員と企業幹部を対象とする調査を行い、その結果を回帰分析した。すると、従業員体験を改善するための5つの重要な要素が見えてきた。

1. 相互の信頼を強化する

 職場における信頼には、2つの側面がある。従業員が組織に対して抱く信頼と、組織が従業員に対して抱く信頼だ。

 相互の信頼は、従業員のエンパワーメントにつながる。マネジメント層が従業員を信頼すれば、従業員がマネジメント層を信頼し、従業員同士も互いに信頼するようになる。また、従業員のモチベーションが高まり、創造性と協働の精神が促進されて、退職率が下がり、リスクを嫌って無難な行動に終始する傾向も弱まると期待できる。こうしたことはすべて、企業の利益を押し上げる要因になりうる。

 このようなエンパワーメントと信頼は、たとえばアップルやリッツ・カールトンで見ることができる。アップルでは、店舗の店員が顧客のさまざまな問題を解決しようとする際に上司の特別の許可を得る必要がなく、リッツ・カールトンでは、従業員が宿泊客の問題を解決するために2000ドルまではマネジャーの了承を得ずに支出できるようになっている。

 また、相互の信頼がある職場で働いている人たちは、自分の声に耳を傾けてもらえていると感じる。マッキンゼー・アンド・カンパニーの調べによると、このように包摂性の高い職場では、従業員がその会社で働き続ける確率が47%高まり、従業員が互いに助け合う確率が90%高まるという。

 カナダのトロントに拠点を置く融資サービス会社のクリアコが驚異的な成長を遂げ始めた時、CEOのミケーレ・ロマノウは、新興企業的な文化を維持しつつも、業務のプロセスを近代化させたいと考えた。そこで、「私たちがやっている愚かでクソったれなこと」というどぎつい名前をつけたメール受信箱を用意し、自社の従業員に対して、業務の無駄をなくし、無用ないら立ちの原因を取り除く方法を提案するよう求めた。

 ロマノウによると、このシンプルな取り組みを通じて、2つの目標を達成できたという。まず、日々の職場生活を改善し、会社に貢献することに関して、従業員が当事者意識を持って積極的に関わるようになった。また、働き手の声をリーダーたちに届けるフィードバックループが確立された結果、リーダーたちが従業員に信頼されるようになり、さらには問題が拡大する前にリーダーたちが気づいて、対処することも可能になった。

2. 最高幹部たちが責任感を抱く

 職場における信頼と密接に関係することだが、最高幹部たちがしっかり責任感を持つことも重要だ。リーダーが自社の事業と働き手の両方に対して責任を持ち、新たなニーズが生じた時は機敏に対応する必要がある。

 リーダーが責任感を持って行動するためには、問いを投げかけて、その回答に積極的に耳を傾けることも求められる。従業員が抱いているニーズを把握できなければ、そのニーズに応えることなどできないからだ。さらに視野を広げると、これは文化の問題という側面もある。最高幹部たちが強力な責任感を持つ文化が根づいている企業は、従業員体験の重要性を理解し、それに重きを置いて行動するのだ。

 多くの場合、この点に関する企業の口ぶりと行動は一致していない。筆者らの研究によると、企業の最高幹部の49%は、自社が従業員のフィードバックに基づいて行動することに長けていると考えている。率直に言って、この割合は高いとはいえない。しかし、問題はそれだけに留まらない。働き手の間では、自社が従業員のフィードバックに基づいて行動することに優れていると考える人が31%にすぎないのだ。このギャップが原因となり、成功や勢い、才能が失われてしまう可能性がある。

 自社の文化の中に、従業員体験を充実させることがすべてのメンバーの役割だという共通認識を構築すべきだ。たとえば、ホテル大手のヒルトンは、部署の垣根を超えたチームをつくり、最高幹部たちが従業員体験について理解するための正式な秩序だった方法を確立した。同社の上級副社長兼最高コマーシャル責任者であるクリス・シルコックは、こう述べている。「幹部がチームのメンバーをどのように扱うかは、顧客をどのように扱うかにも影響を及ぼします」。同社はこれまでたびたび、『フォーチュン』誌の「最高の職場ランキング」に名を連ねてきた。

 あなたの会社では、自社に適した方法を考えればよい。たとえば、従業員体験に関する諮問委員会をつくって、さまざまな障害を打破し、ブレインストーミングとアイデアの創出を後押ししてもよいだろう。あるいは、部署の垣根を越えて優秀な人材を集めて、知識やスキルが不足している点に関してベストプラクティスを提供してもよいかもしれない。共通の属性や価値観などを持った従業員で構成するグループの立ち上げを後押しし、同僚同士でのカウンセリングを促し、キャリア開発を支援してもよい。アンケート調査により「従業員の声」を集めて、従業員の意向や希望を調べてもよい。