燃え尽き症候群に陥らないためのリーダーシップの進化
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サマリー:リーダーやマネジャーがサーバントリーダーシップを発揮すると、組織や個人の業績向上につながることが立証されている。しかし、彼らの忙しさが増していることなどを理由に、サーバントリーダーシップの実践が難しく... もっと見るなっている。本稿では、この状況を改善すべく、仕事が人間にもたらす影響に主眼を置いた、パーパス重視のリーダーシップに移行する重要性を解説する。 閉じる

サーバントリーダーシップの破綻

 1970年に発表された画期的なエッセイで、ロバート・グリーンリーフが「サーバントリーダーシップ」という言葉を生み出すと、その考え方は、それまで何世紀にもわたって支配的だった伝統的な指揮命令型のリーダーシップに対する待望の改善策となった。

「サーバントリーダーは、第一に奉仕者である。まず奉仕したいという感情が自然に湧き起こる。次いで、意識的な選択が働き、導きたいと思うようになる」とグリーンリーフは記している。「そうした人物は、並々ならぬ権力への執着があり、物欲を満たすためにまずリーダーになる人とはまったく異なっている」

 リーダーが自分自身よりもチームを重視すると、組織や個人の業績が向上することが研究によって立証されている。個人レベルでも、サーバントリーダーシップは部下のリーダーに対する信頼、忠誠心、満足度を高める

 しかし、グリーンリーフの最初のエッセイから50年が経ち、特にこの3年間で多くのことが変化した。サーバントリーダーシップを支える筋書きは、以下のもっともな理由によって破綻しつつある。

・燃え尽き症候群の蔓延。リーダーが働きすぎ、疲れ、ストレスを感じている今日の環境では、奉仕は「空のコップからそそぐようなもの」だと感じられてもおかしくない。マネジャーは周りから「あなたの仕事はチームに奉仕することだ」と言われ、顧客に接するチームは「あなたの仕事は顧客に奉仕することだ」と言われる。その結果が疲弊である。

・忙しさが増している。グリーンリーフがサーバントリーダーシップを提唱した当初、一般的なマネジャーは一つの小規模な部署を監督していた。個人的なアウトプットを求められず、部門横断的な取り組みを掛け持ちせず、一夜にしてたまったメールを返すことから一日がスタートすることもなかった。ミドルマネジャーの数が減り続けているいま、リーダーは通常直属の部下を11人から15人抱え、自分自身の重要なアウトプットも求められている。このような疲弊したマネジャーの多くが、奉仕に割く時間がないと感じている。

・職場が階層化されていない。昨今の指揮命令系統は、はしごよりもジャングルジムに似ている。正式な役職なしでリーダーになる場合も増え、誰が奉仕する側で、誰が奉仕される側なのかがわからなくなっている。

 サーバントリーダーシップは、仕事の世界をより人間味のあるものにするための重要な足がかりであった。しかし、次の進化が迫っている。職場に関するデータ(と私たち自身の経験)が示す通り、私たちは転換点にいる。いまは、公式のリーダーも、非公式のリーダーも、自社の仕事が現実に生きている人間にもたらす影響力に主眼を置いた、よりパーパス重視のリーダーシップスタイルに向かって前進しなければならない時である。

 筆者らは、このインパクトドリブン型の経営哲学を「ノーブル・パーパス・リーダーシップ」(崇高なパーパスを伴うリーダーシップ)と呼んでいる。それは、リーダーとメンバーが一体となって、自分たち自身よりも大きなチーム、顧客、地域社会のための大義を追求し、その人々に奉仕するのではなく、プラスの影響をもたらすことを目指す状態である。

 これは微妙な違いだが、明確な変化だ。サーバントリーダーシップにおいて核となるメッセージは、「あなたは他者に奉仕するためにその役割に就いている」である。そのため、ノーと言うのは非常に難しく、リーダー(およびそのチーム)は、すべての人を喜ばせようとして、受け身の対応を取ろうとしてしまう。

 一方、ノーブル・パーパス・リーダーシップで核となるメッセージは、「あなたは影響を与えるためにその役割に就いている」である。そのためには、どこに力をそそぐべきかという、より戦略的な思考が求められる。

 チームの目標や方向性を共通のパーパスに設定すると、リーダーの選択肢が広がる。というのは、すべての人を喜ばせる必要を感じなくなるからである。筆者らは、コンサルティングの仕事を通じて、ノーブル・パーパス・リーダーシップが、奉仕の文化を守りながら、パフォーマンスを高める効果的な進化になりうることを、身をもって証明してきた。

 そこで本稿では、マネジャーがノーブル・パーパス・リーダーシップへと視点を移すべき3つの分野を紹介する。

1. 従業員との関係

 マネジャーは、部下に次のような質問をするようによく教えられる。「私はあなたの成功をどのように後押しできるでしょうか」「あなたは私にどのようなサポートを求めていますか」。これらは申し分ない質問ではあるし、大声で命令するよりも確実によい成果が得られる。しかし、善意のリーダーは、このようなやり取りの後、山のようなアクションリストに疲れ果ててしまう。そのような経験を何度かした働きすぎのマネジャーは、チームにどのような助けが必要なのかを尋ねないほうが楽だと思うようになる。

 マネジャーは、サポートすることを諦めるのではなく、より高いパーパスを中心に据えることで、微妙でありながら強力な軌道修正を行うことができる。チームメンバーへこのように質問するのである。「共通の目標を達成するために、あなたが必要なものは何ですか」「あなたは、どのようなサポートを必要としていますか」。このわずかな言葉の変更で、感情のダイナミクスが一変する。従業員が成功するために何を必要としているかを尋ねることによって、リーダーは一人で従業員をサポートする責任を負うのではなく、責任感を共有することができる。リーダーは目的意識を持って、従業員の業績にプラスの影響を与えるよう、自分を位置づけているのであって、従業員をサポートする責任を一身に背負っているわけではないのだ。

 これがどのように効果的なのか、筆者らのクライアントであるバイスプレジデントのビフォーアフターを例に紹介しよう。このバイスプレジデントは、直属の部下を12人抱え、それぞれから尽きぬ課題を与えられ、仕事に追われていた。サーバントリーダーであることは疲れるうえ、不可能だと感じていた。

 そこでバイスプレジデントは、プロジェクトマネジャーたちへの質問をこのように変えた。「私たちのパーパスは、顧客にプラスの影響をもたらすことですが、これを期限内に首尾よく遂行するために、あなた方に必要なサポートは何ですか」。プロジェクトマネジャーたちは、期限を守るためには他部署からのリソースとサポートが必要だとすぐに判断した。

 もしバイスプレジデントが「私に何を求めていますか」と従来通り尋ねていたら、両者とも苦労していただろう。バイスプレジデントは管理し切れないほどの仕事を抱えていただろうし、プロジェクトマネジャーは他部署を巻き込むことができなかっただろう。共通のパーパス(顧客の生活を向上させるプロジェクトを成功させる)に視線を向けると、リーダーもチームメンバーもより力と効果を発揮できるのである。