
職場で起きている大量離職について、企業は大きな不安を抱えている。だが、人材流出を食い止めるために、高い給与や柔軟性のある働き方を用意しても、十分な成果が得られるとは限らない。なぜなら現在の離職率急増は、パンデミックや長引く在宅勤務のために、自分の仕事の意味に疑問を感じたり、職場に帰属意識が感じられなかったりすることが主な原因になっているからだ。本稿では、こうした状況下において離職率に変化がなく、人材の定着に成功している企業のHR担当リーダーを対象に行ったインタビューから、人材維持の問題に真剣に取り組むための3つの方向性を示し、それぞれ具体的な対処法を紹介する。
現在、職場で起きている大量離職について、多くの雇用主が不安を抱えている。この「大退職時代」(グレート・レジグネーション)の背景として、より柔軟な働き方や高い給与を得られる仕事を求めることから、パンデミックをきっかけとした燃え尽き症候群による極度の疲労まで、さまざまな推測が語られている。
米国労働統計局によると、2021年4月以降に米国だけで1500万人以上が仕事を辞めている。マイクロソフトの最近の調査では、世界の労働者の41%が仕事を辞めることを考えているようだ。
しかし、裏を返せば、59%の労働者は辞めることを考えていないことになる。こうした環境で従業員を定着させている組織から、何を学べるだろうか。
筆者は最近、「自社の離職率は、通常より高いわけではない」とする企業のHR担当エグゼクティブ6人に話を聞いた。この変化の激しい時代に、優秀な人材を維持するために何が必要か、そこに共通パターンがあるかどうか確かめたいと思ったのだ。
そして、実際に筆者が耳にした数多くの洞察に満ちた知見の中に、これらの企業に共通していると思われる3つのプラクティスが現れた。
もしリーダーが、単に金銭や特典を与えれば人材の流出を食い止めることができると考えているならば、自分たちが見当違いの努力をしていると知って驚くかもしれない。人材維持の問題と真剣に取り組もうとしているのなら、もう少し深く掘り下げなければならない。