組織が従業員を巻き込み、ポジティブな職場体験を創出するために、どのような取り組みを行っているのだろうか。以下に、実践的なアプローチを挙げる。
●自社のビジネスと明確に結びついた、柔軟性のある方針を導入する
どのような方針を導入するにせよ、顧客との関係に直結するものであることが不可欠だ。
仮に在宅勤務の方針に柔軟性がない、あるいは最低限しかなく、全員がオフィスに戻らなければなければならない理由が「物理的に一緒にいるほうが自社の文化にとってよい」といった曖昧なものなら、人々は憤慨し、おそらくは抵抗を示すだろう。
従業員の失望を最小限に抑えたいのであれば、どのようなガイドラインであっても、顧客への対応や製品やサービスの製造、あるいはその提供方法と関連づけ、対面での仕事が特定の形態のコラボレーションをどのように強化するかを数字で説明する。
●当事者意識を通じて、連帯感を高める
人は、自分が策定に携わった方針に強い当事者意識を持ち、それが組織全体でルールの遵守を強化することにつながる。さらに、方針に従わない人がいれば、周囲が寛大な気持ちで指摘することも増えるだろう。あるHR担当リーダーは次のように語る。
「当社のリーダーシップチームは、高いカスタマーレスポンスと市場投入までのスピードを確固たるものにするため、対面でのコラボレーションが最低限どのくらい必要になるか、大まかなガイドラインを作成しました。
各部門のトップやマネジャーには、それぞれの業務に応じてガイドラインをどのように解釈するかというトレーニングを行ったうえで、自分の裁量で動けるようにしました。彼らにはさらに、会社のガイドラインを遵守しつつ、公正で柔軟性のある取り組みを行う方法をチームで決めるためのツールを提供しています。これが見事に、功を奏しているのです」
●自身の成長を日常体験に組み込む
キャリアや専門能力の開発を個別の体験とするのではなく、学習や昇進を従業員の役割として組み込んでいくことが欠かせない。
ある企業では「他人の立場で考える」と呼ばれるプログラムを開始した。その目的は、組織の異なる部門で働く従業員のつながりを強化するものだ。プログラムでは、ふだん一緒に仕事をしている隣接部門の人々と毎週、ピアメンタリングを行う。
その企業のHR担当エグゼクティブは、次のように語った。「当初の目的は、リモートワークであっても、部門を超えたコラボレーションを確実に維持することでした。私たちの想定を超えて、その過程で従業員が多くのことを学び、自分の仕事のやり方を変えて、私たちが考えもしなかった水平のキャリアパスが生まれたのです」
この予想外の成功を受けて、現在では、より高いレベルの職種で、影のように同行して働き方などを観察する「ジョブシャドウイング」を行い、所定のプログラムを終えた従業員が講師として研修の場で教えるなど、会社のキャリア開発の取り組みの一環として定着しているという。