本書では何を論じるか
本書『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』の土台を成す研究プロジェクトが正式に発足したのは、4年前のこと。コッター社に最新の脳科学の成果を検討する研究グループが設置されたのだ。この20年ほどの間に脳科学は目覚ましい進歩を遂げており、その研究成果は、「人間の性質」が変革とイノベーションに及ぼす影響に関する著者たちの観察結果とかなり一致している。
脳科学の研究成果、著者たちの数十年にわたる研究と積み重ねてきたコンサルティング経験、そしてビジネス史、組織論、リーダーシップ論、社会人類学の先駆的な研究を組み合わせることにより、変革を実行するのが難しい理由、脅威と機会への向き合い方を改善するためにリーダーが取れる行動について、いくつもの重要な知見を引き出せたように思える。また、大きな成果を上げる企業とそうでない企業の違いを生む力学に関しても新しい発見が得られた。
この研究により、いくつかの主張の論拠をいっそう強化し、過去の研究をより実践的なものに発展させることができた。
本書では、たとえば以下のようなことを論じる。
・「破壊的変化」という言葉で表現されるように、世界が複雑化し、変化の速度が増している状況は、今日の組織と個人が直面している試練の一要因と言うより、最大の要因と言っても過言ではない。
・人間の性質と、現代型組織の標準的なあり方は、このような激しい変化に対処するようにはできていない。変化への対処よりも、安定性、効率性、信頼性、脅威の迅速な除去、そしてなによりも目先の生き残りを最優先に行動する性質が根を張っている。
・その結果、世界で起きる変化のスピード、規模、激しさと、企業および人間の対応力の間には、大きなギャップが生じる。そのなかで組織が変化に対して迅速に調整と適応をおこない、変化に乗り遅れないように努める過程は、リスクとチャンスの両方を生み出す。
・適切な行動を取れば、少なくとも一部の企業では──もしかすると多くの企業で──このギャップを解消もしくは緩和できるはずだ。それができる企業は、世界の急激な変化に対して、平均的な企業よりもはるかにうまく対応できる。変化への対応に苦しむ企業との違いはきわめて大きい。自社に影響を及ぼす変化に素早く目をとめて、迅速に新しい対応策を見いだしたり、対応策を修正したりする企業は、社内の人たちも想像しなかったような成果を手にできるのだ。
・個人やチームや組織全体が意識的に、そして計画的に対応力と加速力を高めることができれば、たとえそれがごく小さな進歩にすぎなかったとしても、世界の膨大な数の人たちの人生に途方もなく大きな好影響を及ぼせる可能性がある。
・過去数十年間、とくにこの四年間に著者たちは多くのことを学んだが、その知見はまだ広く活用されていない。私たちの最新の研究とコンサルティングの経験によりはじめて明らかになったように、変化、とりわけ大規模な変化に関する科学的研究が大きく進展している。そうした研究成果をできるだけ早く理解して実践する必要がある。
本書では、神経科学、組織論、ビジネス史、リーダーシップ論などを土台とする新しい科学的成果をどのように理解し、いま切実に必要とされている変化をどのように実現すればいいかを、具体的かつ実用的な形で示すことを目指す。
本書を執筆する過程では、ハーバード大学の同僚たちや、コッター社の同僚と顧客など、実に多くの人たちに助けられた。一部の人には巻末の謝辞で言及した。ここでは、すべての人たちへの心からの感謝の気持ちを述べるにとどめたい。
>>連載第2回「コロナ禍を『数十年に一度の出来事』と位置づけてはならない理由」はこちら
[著者]ジョン・P・コッター、バネッサ・アクタル、ガウラブ・グプタ
[訳者]池村千秋
[内容紹介]
リーダーシップ論、組織行動論の大家、ジョン P. コッター教授、待望の最新刊がついに発売! なぜ、トップの強い思いは伝わらないのか? なぜ、現場の危機感は共有されないのか? 組織変革の成否を左右する「人間の性質」に迫る。
<お買い求めはこちらから>
[Amazon.co.jp][紀伊國屋書店][楽天ブックス]