組織が苦境に陥るのは、頑迷なリーダーや能力不足の人たちが原因なのか
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サマリー:なぜ、トップの強い思いは伝わらないのか。なぜ、現場の危機感は共有されないのか。組織が変われない理由はさまざまであるが、その根源には「人間の性質」に根差す問題がある。リーダーシップ論、組織行動論の大家で... もっと見るあり、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のジョン P. コッター教授とコッター社のメンバーによる最新刊『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(ダイヤモンド社、2022年)が日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門 優秀賞を受賞したことを記念し、本書から一部を抜粋し、編集を加えてお届けする。第3回は、特許件数やネット上のデータの爆発的な増加を例にいかに変化のスピードが高まっているかを示し、そして変化に適応できずに苦境に陥った企業の原因がどこにあるかについて一考を促す。 閉じる

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不安定化し、不確実性が急激に高まる世界

 これまで何世紀もの間、世界が変化するスピードも、変化の頻度と複雑性も増大してきた。この潮流は、工業化の時代から情報化の時代へ移行するにつれて、ますます加速した。

 変化のスピードと複雑性が高まっていることの実例は、いたるところにある。たとえば、米国特許商標庁が1年間に認めた特許の件数は、1960年から1990年の30年間で2倍に増えた。その後の30年間でその件数はさらに4倍に増加している。こんなデータもある。電話がはじめて登場してから利用者数が5000万人に達するまでに要した年数は75年間。携帯電話の場合、その年数は12年間、アップルのスマートフォンiPhoneの場合は3年間だった。また、2018年のIBMの調査によると、インターネット上に存在するデータの推定90%は、直近2年間に生成されたものだという。

 アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の構成企業がこの500社リストに入っている期間は、1965年には平均33年だったが、いまはその半分にすぎない。数値で示すことは難しいが、企業の社会的評判を脅かす要素が増加していることは間違いない。ソーシャルメディア、リアルタイムのニュース配信、社員のクチコミ情報サイトなどが普及したためだ。たとえば、有力なクチコミ情報サイトであるグラスドアは、月平均で3200万人のユニークビジター数を誇っている。ここに挙げたような例は、さまざまな場で起きている変化の一部にすぎない。

 私たちの周囲で起きる変化が激しくなるのに伴い、私たちを雇い、私たちに必需品を供給し、私たちを統治する組織も変化への努力を強化している。どのような変化の取り組みがおこなわれているかは、業種、セクター、地域によってまちまちだ。しかし、全般的に言うと、変革を目指す活動は30年前に比べてかなり増えている。50年前、組織文化を変えようとする企業はほとんどなかったが、いまではまったく珍しくない。正式な「プロジェクト・マネジメント・オフィス」(PMO)を設ける企業も増加している。

 変化のスピードと複雑性が高まっていることと直接関連して、この20年間で不確実性のレベルも急激に上昇している(図表1-1)。変化の複雑性の大きさが不確実性を生み出しているのだ。経済的・政治的な不確実性が高い状況では、競争力を維持し、新しいチャンスを生かすために、どのような取り組みが必要かを判断することがときとして難しい。

 問題は、組織内の変化のペースが組織外の変化と不安定化のペースに追いついていないことだ。その影響は、文字どおりあらゆるものに及ぶ。たとえば、以下のようなものが影響を受ける。医療の質と受診のしやすさ。株式相場。地球環境。生活をより便利で、より興味深く、より楽しくできる商品の価格。景気。政府が国民の声に耳を傾ける度合い。貧困。感染症の流行など、医療上の非常事態への対応力。快適で満足感を味わえる人生を送れる人の割合。失われずに済んだはずの命が失われる数。これらはごく一部の例にすぎない。