人間には脅威を察知し、取り除こうとする本能がある
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サマリー:なぜ、トップの強い思いは伝わらないのか。なぜ、現場の危機感は共有されないのか。組織が変われない理由はさまざまであるが、その根源には「人間の性質」に根差す問題がある。リーダーシップ論、組織行動論の大家で... もっと見るあり、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のジョン P. コッター教授とコッター社のメンバーによる最新刊『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(ダイヤモンド社、2022年)が日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門 優秀賞を受賞したことを記念し、本書から一部を抜粋し、編集を加えてお届けする。第6回は、続々と新たな知見が取り入れられている新しい「変化の科学」が明らかにした、太古の昔から備わる「人間の性質」について考察する。 閉じる

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新しい知見が取り入れられた「変化の科学」

 人と組織がなかなか変化できないことが多い理由については、きわめて多様な考え方が唱えられている。同様に、人と組織がもっと迅速に、もっと賢く変化に適応するよう促すための方法論についても、非常に多くの考え方が唱えられている。そのため、頭が混乱する人や、今日のような複雑で曖昧な世界において有益な一般論を導き出すことは不可能に等しいと感じる人がいても不思議ではない。

 実は、変化に関する知見そのものが変わりはじめている。複雑で大規模な変化をこれまでより頻繁に、これまでより速いペースで、これまでより複雑な環境で実現させる必要性が高まるなかで、新しい「変化の科学」とでも呼ぶべき学術的成果が蓄積されつつあるのだ。

 それらの新しい研究は、どうして変わることが難しいのか、どうして一握りの人は変革に成功するのか、そのような人たちの行動はほかの人たちとどこが違うのか、そして、こうしたことに関する知識を自分たちの組織にどのように生かせばいいのかという点について、多くのことを教えてくれる。 

 本書『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』の第1章(本連載第1回~第5回)でも簡単に触れたが、この新しい科学──そこからいくつかの概念と原則と戦術を導き出せる──は、主に3種類の研究に基づいている。

 第1は、個人単位の人間をテーマにした研究だ。具体的には、人間がもっている性質、変化への抵抗、変化を成し遂げる能力についての研究である。この分野の研究そのものは何世紀もの歴史があるが、脳科学が新しい知見を大量にもたらしたことにより、近年になって研究が大きく進展している。

 第2は、現代型組織に関する研究だ。この種の研究は、1930年代と1940年代に本格的に始まった。ピーター F. ドラッカーの『企業とは何か』(ダイヤモンド社)は、初期の研究成果の代表例だ。この伝統の上に、いくつかのきわめて有益な研究が最近10年ほどで発表されている。

 第3は、現代型組織と、変革へのリーダーシップを振るう人たちに関する事例研究だ。変革を目指す取り組みがどのような結果になったかを明らかにし、どのような因果関係によりその結果にいたったのかを分析する研究である。初期の研究は1950年代にまでさかのぼるが、もっと近年の研究が多い。組織を取り巻く環境の変化が加速するのに伴い、組織変革とリーダーシップに関する研究も増えているのだ。