傑出したリーダーは何をしてきたか

 世界は複雑性を増していて、私たちは新しい脅威と潜在的な問題を日々突きつけられている。このような状況で危機感を煽って行動を継続させることは、難しくなる一方だ。この種のアプローチは、人々の不安、怒り、罪悪感、ストレスを高める。人々が自己満足に浸ることを防げる利点もあるが、たちまち人々を疲弊させたり、パニック状態で身動きできなくさせたりする恐れもある。

 一方、エイブラハム・リンカーン、松下幸之助、ネルソン・マンデラなどの偉大なリーダーたちを研究することによっても、今日の世界で変化を起こす方法について多くのヒントを導き出せる。

 傑出したリーダーは、チャンスに対する切迫感をつくり出し、それを広く共有させることに長けている。多くの人とコミュニケーションを取り、チャンスを生かすための行動を取るべきだという考え方への支持を取りつけることができる。戦略と情熱を通じて、人々の理性と感情に働きかける。そして、つねに前向きなエネルギーを発し、チャンスについて語ることにより、変化を妨げる組織的・人間的障壁を乗り越え、人々に足並みをそろえて行動させる。

 また、早い段階で頻繁になんらかの勝利を手にできるようにし、その成果を宣伝し、祝福するように心がける。それにより、人々に新たな興奮を与え続けることが目的だ。変革が完了するまで、切迫感とエネルギーが失われないようにも努めている。

 ほかにも明らかになってきたことがある。偉大なリーダーたちは、よくある落とし穴にはまることなく、人々に行動を起こさせ続けている。一度だけ行動させたり、ときどき思い出したように行動させたりするだけではない。しばしば何年にもわたり、継続的に行動させている。著者たちの最新の調査によれば、物事のスピードと複雑性と不確実性が高まっている時代に必要なのは、こうした絶え間ない行動だ。10年に1度ではなく、つねに継続的に行動すべきなのである。

 このようなリーダーたちの行動がもたらす成果の大きさには、しばしば目を見張らされる。そのため、人々はこうしたリーダーに対して、きわめて説得力があり、英雄的で、カリスマ性がある人物という印象をいだく場合もある。しかし、実際の因果関係は、人々が思うものとは異なる場合が多い。

 リーダーのカリスマ性により、人々が行動に突き動かされて大きな成果を上げるというより、リーダーが(人間の性質、現代型組織の特徴、変革のリーダーシップに関する知識に基づいて)人々の繁栄チャネルを活性化させるような行動を取ることにより、人々が数々の障害を乗り越えて大きな成果を上げるという面が大きい。その結果として、リーダーが英雄的でカリスマ性があるような印象が生まれているのだ。

 この点がもつ意味は大きい。強烈な存在感をもつリーダーがいない組織──ほぼすべての組織がそうだろう──であっても、目覚ましい成果を上げることは可能なのだ。チームの多様なメンバーがリーダーシップを振るい、人々に行動を起こさせ、大きな変化を成し遂げればいい。

『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』

[著者]ジョン・P・コッター、バネッサ・アクタル、ガウラブ・グプタ 
[訳者]池村千秋
[内容紹介]
リーダーシップ論、組織行動論の大家、ジョン P. コッター教授、待望の最新刊がついに発売! なぜ、トップの強い思いは伝わらないのか? なぜ、現場の危機感は共有されないのか? 組織変革の成否を左右する「人間の性質」に迫る。

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