4つの原則で人々に行動を起こさせ、変革に弾みをつける
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サマリー:なぜ、トップの強い思いは伝わらないのか。なぜ、現場の危機感は共有されないのか。組織が変われない理由はさまざまであるが、その根源には「人間の性質」に根差す問題がある。リーダーシップ論、組織行動論の大家で... もっと見るあり、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のジョン P. コッター教授とコッター社のメンバーによる最新刊『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』(ダイヤモンド社、2022年)が日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門 優秀賞を受賞したことを記念し、本書から一部を抜粋し、編集を加えてお届けする。第11回は、変革のリーダーシップにおいて、人々に行動を起こさせるための具体的な4つの原則を紹介する。 閉じる

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人々に行動を起こさせるための「4つの原則」

 変革のリーダーシップに関する研究によれば、チームが多くの人たちに行動を起こさせるためには、リーダーがいくつかの原則に従うことが有効だという(図表2-2)。

 第1は、人々を急速な変化に乗り出させるために、「やらなくてはならない」ことをさせるだけでなく、「やりたい」ことに向き合わせて、ポジティブな感情をもたせ、ある意味でボランティア的な姿勢を育むこと。

 第2は、合理的・分析的であることを重んじつつも、人々の心をつかんで支持を取りつけ、情熱的なボランティア精神と「やりたい」という前向きな姿勢を引き出すこと。

 第3は、マネジメントの手腕を発揮し、現代型組織で重んじられる計画立案と組織づくりと統制をおこなうだけでなく、最上層部のごく少数の人間にとどまらず、大勢の人がリーダーシップを振るうように促すこと。

 第4は、小規模な精鋭チームに特定の変革課題に取り組ませる一方で、大勢の多様な人たちにも大きく依存すること。幅広い情報と人的ネットワークをもっている大規模なグループの力を借りることは、どのような変革が必要かを知り、人間と組織の性格に由来する障壁を乗り越えて変革を実行するために不可欠だ。

 この4つの点は、複雑性の高い組織で変化を加速させようとする場合の指針になる。これらの原則を実践することにより、変革のプロセスに弾みがつく。すると、人々が変革を支持して行動するようになり、リーダーシップを発揮する人がますます増え、変革を妨げる障壁を乗り越えやすくなる。その結果として成果が生まれ、さらに多くのチャンスが出現する。

 マネジメント層は、このようなプロセスに抵抗する可能性がある。ピラミッド型組織はそもそも、社員のボランティア精神や「やりたい」という意欲を後押ししたり、さまざまな組織階層でリーダーを生み出したりすることに適していない。今日の世界でとくに変革に成功しているチームは、正規の指揮命令系統とは別にもうひとつのシステムを築いている。正式なピラミッド型の組織だけでなく、流動的なネットワークに土台を置くシステムも備えているのだ。

 現代型組織がピラミッド型の組織形態を取るのには、十分な理由がある。効率性と安定性を高めるうえでは、そうした形態が有効なのだ。しかし、変革を成功させるリーダーチームは、大掛かりな変革課題の大半で流動的なネットワークを活用している。言ってみれば、二元的な「デュアル・システム」を築いているのである。

 業務遂行は、ピラミッド型組織によるコントロールを重んじて進める一方で、戦略的な取り組みは、流動的なネットワークと大勢の多様な人たちのリーダーシップを通じて推進する。デュアル・システムをもつことは、ビジネスの成果と、変革を成功させるために必要な仕事の進め方の両方を、強化し、維持し、定着させるうえできわめて重要だ。この点について詳しくは後述する。