予測できない生成AIの未来に備える4つのステップ
Andriy Onufriyenko/Getty Images
サマリー:多くの経営者が「わずか数年で、強力な生成AIが人間と同じレベルの認知業務をこなすようになる」という考えを持ち始めている。しかしこれは大きな見込み違いだ。リーダーは生成AIと人間が共存しながら、未知の方法で... もっと見る進化する不確実な世界に備える必要がある。本稿では、そのためにリーダーがたどるべき4つのステップを紹介する。 閉じる

生成AIと人間が共存する世界に備える

 最近、ある有名銀行のCEOから、生成AI(人工知能)の将来性について話し合いたいと電話があった。もともとこの銀行とは、詐欺の検知や顧客サービスを改善するためのシナリオに一緒に取り組んでいたが、最近相次いで発表された内容からいって、彼がさらに大きな野望を抱いていることは明らかだった。多くの業界がそうであるように、銀行も労働力の問題を抱えている。熟練した人材に対する需要と、コロナ禍以前のルールに従ってオフィスで働くことに前向きな従業員の供給との間にギャップがあるのだ。

 彼は、生成AIがある種の特効薬になるかもしれないと考えていた。この新しいツールは、自動化によるコスト削減や効率化を可能にするだろうが、人手不足の問題も解消してくれるのではないか。露骨に言えば、AIはいつ人間の労働者に取って代わるのか、と。

 2022年11月以来、筆者は保険、メーカー、製薬など、さまざまな組織の幹部と似たような会話を交わしてきた。その中には脚本家や俳優がストライキ中のハリウッドスタジオ幹部もいた。いずれの幹部もみんな、少ない従業員で多くの価値を生み出す方法を知りたがっている。理由は、2022年秋、オープンAIが開発したチャットボット「チャットGPT」が急速に広まり、AIがメール、論文、レシピ、財務報告書、記事、アイデアなどをみずから生成する能力を実証したからだ。ゴールドマン・サックスは、10年以内に3億人の雇用が生成AIによって失われるか、大幅に縮小すると予測している。

 波乱はすでに始まっている。プロンプトエンジニア(チャットGPTなどのシステムにコンテンツの生成を指示する人)の求人に提示されている年俸は30万ドル以上だ。オープンAIのGPT-4は米国統一司法試験に合格し、近い将来、企業法務に弁護士が不要になるかもしれないことを予感させた。実際ウォルマートは、一部の取引先との契約交渉に用いる生成AIシステム(オープンAIとは無関係)を試作中だ。

 一方、契約に携わる弁護士や調達担当者側も、75%が生身の人間よりもAIとの交渉を好むようになったと回答している。グーグルの「Med-PaLM 2」は、医療知識を学習させた特殊モデルで、現在では医師免許試験の問題に専門医レベルで回答している。2023年の夏には、人間の医師を介さずにマンモグラフィの読影からリポート作成を自動的に行う試験が開始される予定だ。

 この驚異的な開発ペースを見れば、多くの経営者が「わずか数年のうちに、強力なAIシステムが人間と同じ(あるいはそれ以上の)レベルの認知業務をこなすようになる」という結論に達するのも不思議ではない。AIの可能性に惑わされ、有能な人材の確保と維持に憂慮し、最近の株価調整やアナリストの予想を下回ったことで打ちひしがれているビジネスリーダーたちは、いまより従業員が少なくなるという仕事の未来を思い描いている。しかし筆者から見れば、これは大きな見込み違いだ。

 第1に、AIの未来を正確に予測するには時期尚早である。特に生成AIは、さまざまな発展段階にある、多くの相互依存関係を包含する一大領域のほんの一分野にすぎない。AIによって、いつどの仕事が奪われるかは、憶測でしかない。AIシステムがタスクを実行できればよいわけではなく、そのアウトプットが信頼に足ることが証明され、既存のワークフローに統合され、コンプライアンス、リスク、規制に対して管理されなければ、十分とはならないのだ。

 第2に、技術によって急速な破壊がもたらされる時代にあって、リーダーたちは、目先の利益ばかり気にして、自社のバリューネットワークが将来どのように変化するかをあまり考えていない。AIの進化に伴って、ビジネスの全分野を再構築しなければならないが、それは未来に対するはっきりとしたイメージがないまま、リアルタイムで行う必要がある。覚えているだろうか。インターネットやウェブブラウザーは、登場した当初、娯楽としてしか見られていなかった。そして、この2つがもたらすことになる根本的な変化に、誰も備えていなかった。いずれ大統領選挙のあり方が変わり、世界初の1兆ドル企業が誕生することなど、当時予見するのは不可能だったのだ。

 たしかに、いまの経営幹部は、インターネットの黎明期以来、筆者が見てきた中で最も複雑な経営環境の中で決断を下さなければならない。次のテクノロジーの波に乗り遅れまいとするのはわかるが、知らずしらずのうちに、自社の将来を危険な賭けにさらしている。そこで本稿では、生成AIと人間の働き手が共存しながらも、未知の方法で進化する不確実な世界に備えるために、すべてのリーダーがたどるべきステップを紹介する。

予測できない未来への備え

 逆説的だが、労働者は生成AIに取って代わられるのではなく、生成AIとともに進化するものだと認識すべきである。労働者は進化しなければならず、繰り返し新しいスキルを学んでいかなければならない。そしてリーダーは、組織におけるAIの可能性を最大化するために、従来と異なるアプローチを採用しなければならない。そのアプローチとは、AIが大きく進歩するたびに、それに対応できる労働力を繰り返し育成していくこと。そして何より、エビデンスに裏打ちされた未来のシナリオを作成し、組織内の古い考え方に打ち勝つことである。

 この時代を乗り切るために、リーダーはいま、何ができるのだろうか。