新たな労働者をサポートする戦略
「次世代」労働力は常に、社会の進化と環境要因がもたらす複雑な副産物として登場する。新入社員の状況を把握し、彼らを突き動かす独自の要因を理解できるようになれば、彼らのメンタルヘルスをより効果的かつ有意義にサポートできる。
戦略を進めるに当たり、次の3つのアクションを検討しよう。
1. 新入社員のあらゆる経験にメンタルヘルス支援を組み込む
新入社員は、職場で初めての経験を重ねていく。同時に、彼らは心理的安全性や、メンタルヘルスの積極的な標準化を重視するようになってきている。このニーズの高まりに対応するために、新入社員の体験の中で以下の分野を検討しよう。
・人材獲得
メンタルヘルスまたは従業員のウェルビーイングに関するステートメントを作成し、組織におけるメンタルヘルスの位置付けを明確に定義すべきだ。また、メンタルヘルスのサポート事例を求人情報に掲載したり、採用ページにワークライフバランスに関する従業員の声を加えたり、メンタルヘルス関連の福利厚生についての情報を求職者と共有するとよい。
・新入社員に向けて、心理的安全性とメンタルヘルスへの支援がある組織文化を示す
たとえば、テック企業のバッファーは、CEOのジョール・ガスコリンが燃え尽き症候群(バーンアウト)から立ち直るために長期休暇を取ったエピソードを新入社員に伝えている。これによって、メンタルヘルスに関する会社の価値観や、持続可能な働き方へのアプローチを前もって確立することができる。また、従業員ハンドブックや福利厚生に関する詳細なガイド、特にマネジャー向けの学習の機会などを通して、メンタルヘルスを強調することも可能だ。
・継続的に関与する
メンタルヘルスに関する継続的なつながりとコミュニティを構築しよう。一貫したつながりを維持できるよう、オンボーディングでのバディ制度を導入するとよい。従業員リソースグループ(ERG)の交流を促進することで、帰属意識を育て、議論や学習、イノベーションのための安全な空間をつくろう。
メンタルヘルスに関する新入社員の知識や認識、オープンさを活用したリバースメンタリング制度を導入すれば、組織全体にメリットをもたらせる。
2. 持続可能で、メンタル面で健全な職場文化を共創する
ストレスや燃え尽きに関する研究では、有害な職場文化や人間関係が個人のウェルビーイングに及ぼす影響が指摘されている。同時に、新入社員の間でも、キャリアにおける自律性と柔軟性、成長、目的を積極的に優先する人が増えている。
より健全で、より包括的で、より持続可能な職場文化の創造につながる戦略を紹介しよう。
・仕事に関する規範を教える際には明確に、かつ一貫性と思いやりを持って行う
ここでの指導内容には、役割やタイムライン、締め切りといった「ハードな規範」と、緊急性や対応の仕方、コミュニケーションの取り方などの「ソフトな規範」、さらに、セルフケアや健康的な働き方を定期的に奨励することなどが含まれる。
・働き方のニーズやスタイル、好みについて協働する
チームのウェルビーイングやつながり、生産性を高めるために、仕事に関する個々のニーズやアイデアを共有するよう従業員に呼びかけよう。たとえば、始業と終業の時間や集中する時間について明確な境界線を設けること、会議を一日のうちの特定の時間帯に限定すること、通勤や育児へのサポートを提供することなどが挙げられる。
・学習と成長の機会を模索する
研修のような公式の学びと、スキルを身につけ、会社の価値観を実践するシャドーイングのような非公式な学びの両方を検討しよう。キャリアアップの希望と道筋について透明性を保つべきだ。業績評価と昇進が、企業とチームの健全性を支える行動と価値観に基づいて行われていることを確認しよう。
3. メンタルヘルスの支援にユーザーエクスペリエンスの視点を採用する
公的なメンタルヘルス支援について、雇用主から提供されるリソースを従業員が初めて利用する際に、使い方を学ぶのは簡単なことではない(医療費の自己負担金とは何か、など)。新入社員にとってはなおさらそうだ。彼らは、専門的なリソースとセルフケアのリソースを強固に組み合わせた支援を必要とする可能性がある。
受給資格や適用範囲、プライバシー、守秘義務に関する複雑な規則について、新入社員に伝える追加のガイダンスが非常に重要となる。その際には以下の戦略が有用だ。
・福利厚生の「方法」について詳しく説明する
複数のチャネルを使って継続的に情報を共有しよう。福利厚生チームによる学習セッションやQ&Aを開催し、イントラネットに簡単なハウツーガイドを掲載して、さまざまな福利厚生オプションの選択や利用法を詳しく解説する。こうした取り組みをオンボーディングの際に行ったうえで、健康保険の新規加入または現在持っている保険プランの変更ができる期間となるオープンエンロールメントや、ストレスの大きい時期、ローカル及びグローバルな状況に応じて、定期的に繰り返し実施しよう。
・リーダーやマネジャーのスキルアップを図る
リーダーやマネジャーのスキルアップは多くの場合、研修を通じて行われるが、ニュースレターやリソースガイドなども活用できる。危機対応に留まらず、安全性の高い文化の創造と持続可能な働き方を重視するのが効果的だ。そうしたプログラムは、オンボーディングや昇進、年次研修などに組み込まれるべきである。
・健康的なライフスタイルや行動に補助金を出す
個人がセルフケアに取り組む方法は無限にある。瞑想アプリ、コーチングソリューション、睡眠ツール、ジムの会員権などに補助金を支給すること──特に可処分所得の低い新入社員に対して──によって、彼らに前向きな行動を続けるインセンティブを与え、エンパワーすることができる。
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より強固で包括的なメンタルヘルス戦略は、新入社員に限らず、すべての従業員に有益で、彼らの健康と生産性、エンゲージメントを向上させる。そのためには包括的なアプローチが必要となるが、まずは、リーダー間の協力やマネジャー主導のサポート、そして組織の仕事文化に実際の投資を行うことから始めてみよう。
当然ながら、新人もいずれはベテラン社員になる。彼らへの投資は、まさに長期的な労働力への投資なのである。
"How to Support New Workers' Mental Health," HBR.org, Sept. 14, 2023.