5. インクルーシブなリーダーシップは、人事部だけでなく全員の仕事と考えている
筆者らが話を聞いたリーダーたちは、インクルージョン活動を担う少数のリーダーを育成したところで、インクルーシブな環境は育めないという点で意見が一致していた。インクルーシブな環境をつくるためには、全員の努力が必要になる。
多くのリーダーが直面する課題は、DEIの取り組みは基本的に人事部が担い、推進するものという期待だ。実際には、DEIの取り組みが最もうまくいくのは、それが組織の中核的価値観に統合されている時である。なぜなら、組織の全員がその取り組みに賛同しやすくなり、反発や懐疑的な見方をはねつけやすくなるからだ。また、中核的価値観に統合されていれば、リーダーが交代しても、インクルーシブな取り組みが続き、組織のDNAとして継続されるだろう。
組織によっては、インクルージョンに対する総合的なアプローチは、採用、選抜、育成、定着といった従業員のライフサイクルのあらゆる側面にDEIが組み込まれることで示されている。あるいは、具体的なDEIプログラムはないが、従業員の日常業務の遂行方法にDEIが組み込まれている組織もある。こうした「全社的アプローチ」を強化する方法はいろいろある。
たとえば組織戦略にインクルージョンを組み込む、インクルージョンは努力目標ではなく期待値であることを従業員に伝える、インクルージョンを採用、報酬、研修、昇進、定着の基準に組み込む、定期的にインクルージョンのメッセージを発信する、トップリーダーがインクルージョンを目に見える形で一貫して支援する、全領域を代表するインクルージョン大使を育成する、といった方法がある。
インクルーシブなリーダーシップの力
こうしたインクルーシブな取り組みは、組織のあらゆる人の活躍を促す。インクルージョンとは「人当たりがよくなる」とか「誰にでも親切にする」といったことと誤解されがちだが、筆者たちが話を聞いたリーダーたちは、インクルージョンが全員にもたらす形あるメリットに焦点を当てていた。
たとえば、彼らは、多様性のあるインクルーシブな職場は、あらゆる人にとってよい職場であることに気がついた。なぜならそれは、自分とは異なる人たちと協力する新しい方法を見つけるよう促し、より良い製品やサービスを作るための創造的なコラボレーションを可能にするからだ。また、これまでとは違う物事を達成する方法を編み出し、予期せぬブレークスルーを可能にする。従業員に誇りを持たせ、ウェルビーイングをサポートする効果もある。
こうした従業員のポジティブな相互作用は、社内のステークホルダーだけでなく、幅広い顧客を巻き込み、組織の評判を高めることにもつながる。そしてそのすべてが、優れた人材を呼び込み、収益を増加させることにつながる。あるエンジニアリング企業のCEOは、ある入札案件で、強力な競合他社と真っ向勝負をした時の話をしてくれた。そして彼の会社が長年、ダイバーシティとインクルージョンを育んできたことが、最終的に大型契約を勝ち取ることを可能にしたという。インクルージョンは「パイを大きくすること」だと、彼は語った。
つまり、インクルージョンを実践してきた模範的なリーダーたちは、情報、マインドセット、日々の慣習、そして組織のシステムを良心的に活用してインクルージョンを推進する。インクルーシブにリーダーシップを発揮するためには、行動と勇気、創意工夫が必要だ。ますますハイブリッド勤務が広がる現代の職場では、具体的な実践方法は状況によって変わってくるかもしれないが、本稿で示した原則は変わらない。意図的かつ柔軟に実践すれば、こうした努力は従業員のウェルビーイングとビジネスの成果の両方を高めることができる。
"What Makes an Inclusive Leader?" HBR.org, September 27, 2023.